先週木曜、景気動向指数の発表を前に日本経済新聞が景気拡大が続き戦後3位になるという記事を一面トップで出しました。
<2012年12月に始まった「アベノミクス景気」が、1990年前後のバブル経済期を抜いて戦後3番目の長さになった。世界経済の金融危機からの回復に歩調を合わせ、円安による企業の収益増や公共事業が景気を支えている。ただ、過去の回復局面と比べると内外需の伸びは弱い。雇用環境は良くても賃金の伸びは限られ、「低温」の回復は実感が乏しい。>
たしかに、翌日の7日に発表された景気動向指数の2月の速報値では、基調判断は「改善」となっていました。
<② 一致指数の基調判断
景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。>
これ自体は喜ばしいニュースで、まだまだ実感には乏しいものの、先行きが明かるいのであればいいことです。個人的には、2014年4月の消費税増税後の反動を景気後退としていないのはちょっと疑問があるのですが...。日経の記事の中にあるグラフでも、消費税増税以降、多少の上がり下がりはあっても去年の後半までは緩やかな下落傾向にありますからね。ここ3~4か月の回復期というのは、本来であればアベノミクス第2期の拡大期といった方がいい気がします。もっとも、「消費税増税があっても景気は拡大し続けていますよ」というイメージを作った方が、2019年10月に予定されている(といわれている)8%から10%への消費税増税がやりやすくなるという意図も透けて見えますから、財政再建派としてはそう言うしかないのでしょう。こうした消費税増税に向けたイメージ作りの一環か、上記日経の記事の中にはさらに誤解を生みそうで看過できない表現がありました。
<「アベノミクス景気」を象徴するのが公共投資だ。東日本大震災からの復興予算や相次ぐ経済対策で、回復の期間中に1割ほど増えた。小泉政権の予算削減で3割減った00年代とは対照的だ。>
輸出の伸びや個人消費の伸び悩みについては記事中にグラフを示していますが、この公共投資に関しては<東日本大震災からの復興予算や相次ぐ経済対策>としか書かれておらず、エビデンスが一切ありません。関連記事も読んでみましたが、これといった根拠を見つけることはできませんでした。
たしかに、予算ベースで見れば、公共事業関係費という予算項目は一見すると増えているように見えます。
ただ、三橋氏も指摘している通り、増えているといってもピークである1998年の14.9兆円と比較すると半分以下。それも、当初予算と補正予算を合わせてもそれくらいにしかなりません。日経の記事にある通り景気拡大の期間中で1割増となっていますが、スタートの2012年に補正予算でドンと積み増したあと、2013年、2014年と少しずつ減らしています。その後、消費税増税の影響で景気が腰折れした後にようやく漸増して1割増まで来たというわけです。決して、アベノミクスは公共事業頼りというわけではなく、むしろ景気を浮揚させるためには力不足だったのではないかという批判すら出来るほどです。
さらに、実際に幾ら使われたかが分かる決算ベースで見ればその傾向は顕著です。あまり注目されませんが、財務省のホームページでは予算だけでなく、決算についても公開されています。2016年度については終わったばかりですのでまだ公開されていませんが、2015年度(平成27年度)までは公開されています。アベノミクスが始まったのは2012年12月とされていますから、その前後の対比として2011年度(平成23年度)から各年度決算の公共事業関係費についての部分を順にあげておきますと、
その中で、支出済歳出額の推移を見てみると、(100億円以下四捨五入)
2011年度(平成23年度) 5.9兆
2012年度(平成24年度) 5.8兆
2013年度(平成25年度) 8.0兆
2014年度(平成26年度) 7.3兆
2015年度(平成27年度) 6.3兆
予算ベースと違って2013年度の方が伸びているのは、2012年度補正予算で編成されたものの執行できずに繰り越した額がおよそ3.8兆円に上ったからでしょう。その後、2014年度、2015年度と決算ベースでも公共事業関係費が削られているのが良く分かります。これらを総合すると、アベノミクス初期のいわゆる15か月予算によって増額されて以降、予算ベースでも決算ベースでも公共事業関係費は減少傾向にあるということです。
これを見て、どうして<「アベノミクス景気」を象徴するのが公共投資だ。>なんて記事が書けるんでしょうか?「アベノミクス=財政出動過多⇒財政の危機をもたらす」というイメージを植え付けたいんでしょうか?データを見れば実はそれは逆で、むしろ財政出動が足りない分だけ緩やかな景気回復、実感なき回復にとどまっているのではないでしょうか。
自戒も込め、イメージではなくファクトに当たる努力がマスメディアには必要であるとつくづく思います。