先週ほぼ一週間、休暇でタイ・バンコクに行ってきました。タイは先月13日にプミポン国王陛下が崩御され、国全体が喪に服しているさなか。国民こぞって黒い服を着ていて、一部では黒い服が店頭から消えるような事態になっていると日本国内でも報道されています。在タイ日本大使館も、タイに訪問する日本人に対し服装の注意喚起をしていました。
<(1) タイを訪問する者は、公共の場では、地味で敬意のある服装を着用することが推奨されます(但し、特に旅行者にとってこれは義務ではありません)。タイ人は、黒又は白の服装を着用します。
(2) 訪問者は、不適切な、又は礼を失する行動を差し控えてください。>
ということで、私も慌てて家じゅうから黒い服をかき集め、パッキングをしました。日本国内の一部報道で、黒い服を着ていない人がバッシングを受ける事態になっている旨言われていましたが、行ってみての感想はそんなことはなさそうだというもの。もちろん、一部で行われているかもしれませんし、ネット上ではそうした議論が白熱しているようですが、見た限りはそこまで厳格なものではありませんでした。電車に乗っていると黒いTシャツを着ている人は多いんですが、そのシャツにデカデカとドクロが描かれ、その上に"Dead or Alive"と書かれていても、特に誰も何も言わない...。私は内心、「国王陛下が崩御しているのに、Deadはないだろう...」と思っていたんですが。
バンコク市内の至るところにこうした追悼設備がある(市中心部のセントラルワールド)
先月13日に崩御され、その後宮中での一連の葬送の儀式を行いました。ご遺体は王室の菩提寺たるワット・プラケオに安置されています。そして、私がタイに着いた先月28日、一般のタイ国民による弔問が始まりました。
このワット・プラケオという名前、一度でもバンコクに行かれた方ならご存知だと思います。チャオプラヤ川近くの観光名所、王宮の中にある寺院で、別名エメラルド寺院とも言われています。
28日から一般弔問が開始されると発表されるや、タイ全土から弔問客がバンコクへ殺到。王宮前の広場には人があふれ、徹夜組が何百人という単位で出たと現地メディアは伝えています。想定では、一日1万人を見込んでいた人出が見込み甘く、初日の28日には一日2万人を超える人が来訪。このため、朝8時の開門を朝4時まで前倒しし、終了も夕方の予定を後ろに送り、夜9時まで延長。それでもギリギリさばき切れるか切れないかという人出でした。
現地地上波テレビは娯楽番組等を一切休止。プミポン国王陛下の生前のご活躍の様子を放送するとともに、28日以降はこの王宮周辺に特設スタジオを設営して生中継。混雑の様子、高齢者や障がいを持った人への特別案内等の細かな情報を流して、混乱の収拾を図っていました。
ところで、この王宮周辺というのは少し交通の便が悪いところ。エクスプレスボートというチャオプラヤ川の水上バスで行くか、バス・タクシーなどの交通機関を使うことになるんですが、国王崩御の後は周辺1キロ以上を交通封鎖。一部のバスなどを除き、王宮周辺は進入禁止になりました。多くの国民が自家用車で乗り入れることによる混乱、大渋滞を避けるのが狙いでしたが、そのため何キロも前から徒歩で王宮へ向かわざるを得なくなりました。そこで、バイクを持っている一般市民が無料で王宮周辺まで乗せていくバイクタクシーのボランティアも組織されました。普段は許可された人しかバイクタクシーは出来ませんが、こうした時は行政も柔軟で、写真のようなプラカードを掲げていればOK。規制線を管理している警察官も、この手のバイクタクシーはスルーしていました。後ろに乗る人はヘルメットもしていないのはこの際ご愛嬌ってことで。
ということで、10月一杯は観光客は王宮に入れませんでしたが、11月に入って観光客にも開放されました。私は11月3日に訪れましたが、折り悪く、この月末をターゲットに自動車爆弾テロの情報があり、王宮周辺はピリピリした雰囲気に包まれていました。
<タイ警察は11日、イスラム系の武装グループが爆弾テロを計画しているという情報をもとに、潜伏先とみられるバンコクのアパートなど9か所を捜索した。タイ警察によると武装グループは、今月25日から30日の間にバンコクやその周辺で車に爆弾を仕掛ける方法でテロを計画していて、警察は捜索先にいた数人を拘束してテロ計画との関連を調べている。>
王宮の1キロほど手前にチェックポイントが設けられ、ここで空港と同じように手荷物検査、ボディチェック。私は子供の食事用に食べ物を切るための小さなハサミを持っていたんですが、これを探し出し「これはダメ。この先は持って行けない」と。子ども用であって、何もこれでテロを行うわけではないと夫婦して力説するも応じてもらえず...。やはり、かなり厳しいチェックがされていました。
しかし、これも考えてみれば当たり前の対応。人心が不安に思っている国王陛下崩御のタイミングでテロが起これば、さらに社会不安が増大し、テロリストの思うつぼとなります。タイのように観光収入がGDPの1割を占めるほどの観光立国であれば、服喪期間中で観光客の足が鈍るタイミングでテロとなればさらに打撃となり、これもテロリストの目論見通り。警戒を厳しくするのが内政的にも経済的にも理にかなった行為なのですね。
翻って我が国ではどうか?一つ災害が起こるとそれに集中するあまり、他への警戒が手薄になっていはしないか?たとえば、熊本地震の時に自衛隊を集中的に投入するまでは良かったのですが、もともと人員が足りていない自衛隊。そのしわ寄せで残留部隊に無理は生じていなかったのか?その時何もなかったのは僥倖としか言いようがないのではないか?微笑みの国の厳しい一面を見た時、平和を守る厳しさを見た思いがしました。
ちなみに、私は「崩御」と書いていますが、これは海外であっても君主など特別な地位にあられた方が亡くなった場合の尊称なので使っています。先ほど引いた在タイ日本大使館の記事にも「崩御」とあります。日本のメディアはだいたい「死去」と書いていますが、どうなんでしょうか?現地でタイの人々の敬愛ぶりを目の当たりにすると、やはり「崩御」なのではないかと思ったのですが...。一応、間違いだと指摘される前に釈明しておきますね。