今日、第47回衆議院選挙が公示されました。今回の選挙報道について、放送局内はその内容についてだいぶピリピリしています。というのも、公示直前に自民党からこんな文書が回ったそうだからです。
<自民党がNHKと在京民放テレビ局に対し、選挙報道の公平中立などを求める要望書を渡していたことが27日分かった。街頭インタビューの集め方など、番組の構成について細かに注意を求める内容は異例。編集権への介入に当たると懸念の声もあがっている。>
公平・公正ということで放送局の中ではかなり厳しい自主規制が入っているようで、在京テレビ局の制作スタッフの間の噂では、一度でも選挙応援に入ったコメンテーターは選挙が終わるまで露出禁止という内規を作った放送局まであるそうです。あくまで噂ですが...。
こうした放送局の反応もあり、公示日前日の党首討論(日本記者クラブ主催)の中で自民党安倍総裁に質問が飛びました。
<選挙報道をめぐり、自民党が圧力とも受け取られかねない文書を在京テレビキー局に対して出したことを問われると、安倍氏は、公平公正に報道しているならなんの痛痒(つうよう)もないはずだ、と反論した。>
公平・公正に報道していれば問題ない。まさしくその通りで、選挙期間に入ると途端に政治に関する報道が少なくなるこの国のメディア状況というのは本末転倒です。どこまでが公平・公正で、どこからが偏向した報道になるのか?何か選挙のたびに引用している気がしますが、再び前回の参院選の時に書いた拙ブログを引用したいと思います。
(引用ここから)
2013年7月4日
【選挙期間中は、政治の話ができない?】
(前略)弊社ニッポン放送も含めて様々な放送の現場で、これから神経質な番組作りが行われます。よく言われるのが、
「これから政治に関する話が出来なくなるなぁ」
というボヤキ。中にはオンエアの中で
「選挙期間中なので、政治に関する話はできないんです」
と宣言する人までいる始末です。そして、もし政治トピックを取り上げる場合には、「公平・公正を期さなければならない。」具体的には、「話すのならすべての候補を平等に扱わなければならない。」と言われています。
しかしこれ、少し考えると、放送の根本と相反するものなんです。大きな話をしますが、放送の大きな目的の一つが、国民の「知る権利」に応えること。選挙期間中は、普段政治に興味がない人でも少しは政治の情報を知りたいと思う時期。その時期に「公平・公正」を気にするあまり、政治トピックそのものを扱わないというのは、「知る権利」に正しく応えていないように思うのです。というか、「これだけ世間的に盛り上がっているのに、なぜ放送では扱えないんだろう?」という素朴な疑問から、根拠となる法律について調べてみました。
まず、選挙というと思い浮かべるのが公職選挙法。
しかし、公選法という法律は、基本的に「選挙される側」、「候補者側」を縛るもの。
放送事業者を縛るものではありません。唯一放送について言及されているのは第150条、151条の2つ。
(政見放送)
第百五十条 衆議院(小選挙区選出)議員の選挙においては、候補者届出政党は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中日本放送協会及び基幹放送事業者(中略)のラジオ放送又はテレビジョン放送(中略)を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は候補者届出政党が録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない。
(選挙放送の番組編集の自由)
第百五十一条の三 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、日本放送協会又は基幹放送事業者が行なう選挙に関する報道又は評論について放送法の規定に従い放送番組を編集する自由を妨げるものではない。ただし、虚偽の事項を放送し又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。
※筆者注 第138条の3の規定とは、「人気投票の公表の禁止」の規定である
法律文を見ると難しく見えますが、150条では政見放送のやり方が書いてあり、そして、151条の3では、虚偽の事項や事実をゆがめない限り、編集の自由も保障されています。
というわけで、選挙期間中の放送について縛る法律はないわけです。
政治と放送の間で基本となる法律は、放送法となります。
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
この1条2項の「不偏不党」、4条2項「政治的公平」、そして同4項「できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」というところに照らして選挙報道は出来上がっているようです。しかしながら、この法律も期間を定めているわけではありません。すなわち、選挙期間中にあんなに放送内容を縛る根拠にはなりません。むしろ、この放送法の条文を厳格に運用すれば、普段から選挙前のような報道しかできないことになってしまいます。
と、ここまで調べて分かったことは、選挙期間中に放送内容を縛っている法律は存在しないということ。では、何を根拠に放送内容はきつく縛られているのか?それは、我々民放の場合は、民放連の放送基準というガイドラインでした。
この第2章「法と政治」、11条、12条が当てはまります。
(11) 政治に関しては公正な立場を守り、一党一派に偏らないように注意する。
(12) 選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない。
公職選挙の選挙運動は、放送に関しては選挙期間中における経歴・政見放送だけが認められ、それ以外の選挙運動は期間中、期間前を通じて一切禁止されている。したがって、期間中はもとより期間前においても、選挙運動の疑いのあるものは取り扱ってはならない。
現職議員(地方議会議員を含む)など現に公職にある者を番組に出演させる際には、その必然性および事前運動的効果の有無などを十分に考慮して判断すべきである。
(後略)
ここで問題になるのは、放送では「経歴・政見放送以外の選挙運動」を取り扱ってはならないというところ。では、「選挙運動」とは何なのか?東京都選挙管理委員会によると、
「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかること又は当選させないことを目的に投票行為を勧めること。」
とされています。
すなわち、民放連のガイドラインで禁じているのは、
「○○選挙区の△△さんは素晴らしいから当選させましょう!」
というように投票を呼び掛けたり、
「××さんは議員の資格なし!投票しちゃいけません!」
なんて呼びかける行為であって、各党の政策や主張を論評すること自体は「選挙運動」に該当せず、放送を禁止されているわけではないようです。つまり、あれだけきつく放送内容が縛られていたのは、我々放送局側の自主規制に過ぎなかったのです。
(後略)
(引用ここまで)
ということで、特定の候補や党派に直接投票を呼び掛ける行為、あるいは特定の候補、党派を貶めるような行為は問題となりますが、各党の政策・主張を論評することは問題ないわけです。そう考えると、一度でも応援演説をすると選挙が終わるまで放送に出られないなんて言うのは笑い話以外の何物でもありません。むしろ怖いのは、こうした自主規制が積もり積もって、何も言えない社会が形作られるところです。今回ああいったペーパーが放送局に配られたからこそ、「これこそ公平・公正な報道だ」と見せつけるようにメディアが積極的に政策のニュースを取り上げなくてはなりません。
今こそ、メディアの覚悟が問われています。