総理が解散を発表してから2日。今日の新聞一面は『軽減税率』の話一色になっています。2017年4月に消費税を10%に増税するにあたり、食料品や生活必需品の税率を引き下げるという『軽減税率』。公明党が消費税増税の3党合意の時から導入を主張していて、これに配慮して今回の選挙の統一公約に盛り込む方針だということです。
<2017年4月の消費税率10%への引き上げと同時に、生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入を目指すと明記した合意文書をまとめた。20日の与党税制協議会で正式に確認し、衆院選で両党が作成する共通公約に盛り込む。>
実施の時期についてはまだ曲折があるかもしれませんが、ついに軽減税率は共通公約にも盛り込まれることになり、実施そのものは確実となりました。しかし、これは筋の悪い話。特に、新聞各紙が大好きな『財政再建』という話とセットで見ると、まったく逆行する話のはずなのです。消費増税に関しては、「財政再建のためには避けられない」ということで東京新聞を除く各紙経済面は一致していましたが、ではなぜ軽減税率を適用するのか?青臭い書生論のようですが、増税で増収を見込むはずが割り引いてしまっては当初の目的を達成できません。ちなみに、財務省が詳細に試算しています。
<「生鮮食品のみ」に軽減税率を適用すると、軽減税率を採用しなかった場合に比べ、消費税率1%あたり税収が年1800億円減るなどとしている。(中略)軽減税率を「すべての飲食料品」に適用すると、消費税率1%あたりの減収額は6600億円、公明党が主張する「酒類・外食を除く飲食料品」に適用すると4900億円の消費税収が減るとしている。>
<対象品目では、生活必需品の税負担を軽くし、痛税感を和らげる観点から、まずは飲食料品を想定し、対象の線引きと税収への影響をまとめた。公明党が提案してきた「酒、外食を除く飲食料品」を対象にした場合の減収額(消費税率1%あたり)は4900億円。全ての飲食料品を対象にした場合の減収額は6600億円まで増えるが、コメ、みそ、しょうゆの3品目や、精米に限定した場合は、200億円になると試算した。>
注意しなければいけないのは、いずれの金額も1%軽減すると減収になる金額。仮に公明党が主張する「酒類・外食を除く飲食料品」に「5%の軽減」を適用するとなると、それだけでおよそ2兆5千億円の減収となります。毎年2兆円以上の減収は、『財政再建』を目指す新聞各社にとっては金額が大きすぎるのではないでしょうか?しかし、そうした批判は聞こえてきません。一体どうしたことなのか?公明新聞は先ほどの記事に続いてこんな一文を載せています。
<公明党は、新聞・出版物に関しても、社会政策的な観点から軽減税率の対象に加えるよう求めていく。>
一方、野党各党も公約づくりを急いでいます。
<野党各党は、議員自らの「身を切る改革」や税金の無駄遣い排除など行政改革を公約に盛り込む。12年11月に野党・自民党総裁だった安倍首相自身が約束した国会議員定数の削減を実現していない点などを批判し、与党との違いを強調する考えだ。>
消費増税の条件の一つが「身を切る改革」であるというのが主な野党の主張ですが、これはこれでまったく経済合理性を考えていない議論です。消費税率を1%引き上げると、国民から国に2.5兆円が移転すると言われています。今年4月に5%から8%へ3%増税したときに、ざっと7.5兆円が国に吸い上げられた計算になります。一方で、議員を1人減らすと、いくら浮くのか?
<(前略)こうした経費を含めると、仮に政党交付金が年間1000万円だとして、年間4400万円ほどのお金が議員本人の口座や政党支部の口座に分けられて振り込まれます。>
これは、歳費(ボーナス含む)だけでなく文書通信交通費や政党交付金の議員への割当額なども勘案した数字。より実態に近いものだと考えられます。しかし、それであっても一人あたり4400万円。消費税1%で2.5兆円であることを考えると、焼け石に水にもならない数字です。そりゃ、やらないよりはやった方がいいことに違いはありませんが、これをもって「身を切る改革」と胸を張るのはどうなんでしょう?
与党も野党もどうも一貫性に欠けるチグハグな主張が目立ちます。こうした整合性のなさを一つ一つ正していくのが新聞をはじめとしたメディアの役割だとも思うんですが...。そうして情報を整理した先に、この選挙の『争点』が浮かび上がってくるはずなんですが...。公示まであと10日あまり。メディアの真価が問われています。