2014年09月29日

香港の現場から

 今週末、香港の民衆運動が大きく動きました。もともと香港では、2017年に行われる予定の香港政府のトップ、行政長官選挙の方法を巡って民主派と親中国派が鋭く対立していました。完全普通選挙を求める民主派に対し、事実上親中国の人物しか立候補を認められないシステムを作るという北京政府からの指令を忠実に履行しようとする現政権(親中国派)。業を煮やした民主派は、オキュパイ・ウォールストリートに習って『オキュパイ・セントラル(和平占中)』という中心部での座り込みを中心とする直接行動を10月1日に行うということを前々から通告していました。では、なぜそれが今週末に行われることになったのか?現地の空気を知れば何かわかるかも知れないと思い、たまたま先週末時間が出来たので香港まで行って見てきました。

 取材して日本での報道と違う感じたのは、香港の人々が何に怒っているのか?というところ。中国からの圧力で民主的であるべき選挙が歪められることに対する抗議というのが報道で伝えられているところですが、どうやら違うらしいのです。もちろん、選挙の方法についてが発端ではあったんですが、それ以上に、「いくらなんでも学生相手にやり過ぎだろ!」というのが本音にありました。

 それまで香港では、デモを抑える際に強制的な手段は取りませんでした。あくまでも市民運動を尊重するというのが、香港政庁の基本的な方針であったようです。ところが今回、26日(金)に学生たちが座り込みを始めたところ、催涙スプレーを無抵抗の学生の顔をめがけて吹きかけたり、強制的に排除したりと直接行動に出ているので、それを見ていた大人たちも我慢ならなくなったというのが真相のようです。学生たちが根こそぎ逮捕されるに至り、大人たちもこぞって学生たちの支援に集まりだしました。さらに、その模様を取材していた記者たちも警官隊の妨害に遭い、マスコミの論調も政府に厳しいものに。地元の各テレビ局は連日生中継を継続し、これを見た大人たちも現場に殺到。『オキュパイ・セントラル』を企画していた大学准教授らも初めは「予定通り10月1日に実施」と繰り返しアナウンスしていましたが、あまりの勢いに押し出されるように週末の実施を前日の深夜発表しました。

 さて、ではなぜ『オキュパイ・セントラル』なのか?これについても、日本の報道と現地とはちょっと違いました。というのも、日本の報道は『オキュパイ・ウォールストリート』の連想で金融街を占拠するというのが目的であるかのような報道がされています。たしかに、金融は香港の生命線。ここを脅かせば、政府に対してのプレッシャーになりますが、実は占拠している場所がちょっとずれていて、最初に学生たちが座り込みをしたのは政府庁舎の前の広場。というのも、ここが香港の民主主義が圧迫されていく象徴のような場所だったからです。

 話は3年前に戻ります。2011年、この政府庁舎を立て直した時に、当時の行政長官ドナルド・ツァン氏はオープンな政治を目指し、庁舎前の広場も広く市民に開放しました。その後、行政長官が現職の梁振英氏に代わると、周りを柵で囲み、許可なく広場で大人数が集まることを禁止に。広場で人が集まれるのは週末のみ。それも許可を得た団体が主催する場合のみとするなど締め付けが厳しくなる一方。さらに、2012年には中国本土と同じような愛国教育を柱とする教育改革を強行しようとするなど、分かりやすく親中国的な政策を打ち出すなどしていて、香港人としては少しずつ少しずつ息苦しさを感じていました。そんな政府庁舎前広場を市民の手に取り戻すというのは、香港の民主派にとっては象徴的な出来事であったわけです。

 それにしても、現地は非常にピリピリしていました。私はセントラルに向かって路面電車に乗っていたんですが、政府庁舎前まで500mほど手前で運転打ち切り。バス路線もかなり手前で営業打ち切りとなっていました。仕方がないので、そこから徒歩で中心まで入ろうとすると誰何され止められる始末。どうやら政府側は政府庁舎を中心にかなり広い範囲で地上の交通をストップさせて、中心に人を入れさせないという戦術のようで、最寄りの地下鉄駅である金鐘(アドミラルティ)駅は全列車が通過していました。そして、地下鉄は来る列車どれも超満員。普段は仕事帰りにバスや路面電車を使う人、さらに一駅手前から歩いてデモに向かおうとする若者まで、乗り切れないほどの人出でした。

 地上でデモをしている人たちと、仕事から地下鉄で帰る人たち。

 貧富の差が激しいと言われる香港ですから、民主主義に対する考えにも今のところはかなりの温度差があるようでした。

 ただ、心配なのは、この動きが香港の中の各地に飛び火しつつあるということ。今日からは、中国本土と地続きの九龍半島の旺角(モンコック)でも座り込み運動が始まったそうです。本土により近い九龍側でも始まったというのは、危機のレベルが一つ上がったと私は思います。習近平政権はここでも力による統治を選んでしまうのでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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