集団的自衛権の行使を容認するかどうか、総理の諮問機関の安保法制懇からの報告書が今週提出され、議論の場は自民・公明の与党協議に移りますが、それを前に各新聞の世論調査が様々出されています。これが、各紙の色が出ていて非常に面白い。というか、同じトピックにも関わらずあまりに結果が違うので、世論調査の誘導方法のいいサンプルになっていて、そこが面白いのです。
まず、今朝の読売新聞の朝刊一面にこんな見出しがデカデカと出ました。
<政府が目指す集団的自衛権の行使に関して、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」とした「限定容認論」を支持する人は63%に上ることが、読売新聞社の全国世論調査で分かった。>
一方、4月の半ばの朝日新聞は、
<朝日新聞社が19、20日に実施した全国世論調査(電話)で、安倍晋三首相が目指す憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認について尋ねたところ、「反対」は56%で、「賛成」の27%を上回った。今国会中に憲法解釈を「変える必要がある」は17%にとどまり、「その必要はない」の68%が圧倒した。>
集団的自衛権の行使容認に積極的な読売新聞と、行使容認に反対の朝日新聞で、同じテーマでほぼ同じ時期の世論調査なのに正反対の結果が出ています。なぜそんなことになっているのか?昔から指摘されていることですが、質問の違いが結果の違いに現れています。
まず、読売新聞。こちらはホームページに質問項目が載っていませんので本紙から引きますね。
<日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利を「集団的自衛権」と言います。政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました。この集団的自衛権について、あなたの考えに最も近いものを、1つ選んで下さい。
・全面的に使えるようにすべきだ 8
・必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ 63
・使えるようにする必要はない 25
・その他 0
・答えない 4>
一方、朝日新聞はホームページに質問事項が載っていました。
<◆集団的自衛権についてうかがいます。集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を使えるようにすることに、賛成ですか。反対ですか。
賛成 27 反対 56
◆安倍首相は、いま開かれている国会の期間中に、集団的自衛権を使えるように憲法の解釈を変える方針です。いま開かれている国会の期間中に憲法の解釈を変える必要があると思いますか。その必要はないと思いますか。
国会の期間中に憲法の解釈を変える必要がある 17 その必要はない 68>
違いが歴然としていませんか?
読売は、質問文こそシンプルですが、選択肢がちょっと誘導的。
全面賛成、全面反対の真ん中に「必要最小限の範囲」という中間的な選択肢が入っていて、かつ「あなたの考えに最も近いもの」という質問の仕方をしているので、最もカバーの範囲が広い真ん中に答えが集中するのは目に見えているでしょう。結果、集団的自衛権容認押しの読売にとって都合のいい結果が出ました。
一方、朝日の方は、集団的自衛権の説明を挟みつつ、さりげなくリスクを強調する一文、「集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。」というものが質問の前に挟み込まれています。さらに、アメリカとの関係を強調して「地球の裏側まで派兵する」という危険性を匂わせつつ、イエス・ノークエスチョンを突きつけることで、どちらでもない人にも反対を選ばせようという意図を感じます。結果、集団的自衛権行使容認に反対の朝日にとって都合のいい結果が出ました。
朝日の見る我が国の「世論」も、読売が見る我が国の「世論」も、どちらも「世論調査」と名のついた結果なのですから、信用しろという方が厳しい話です。さらに言えば、これが「世の中の議論を深めるために調査している」という建前があるから悪質なのです。一見公平を装いつつ、自社の社論に近いところに誘導しようとする。これでは、「見たいものしか見ない」という近視眼的発想と言われても仕方がないのではないでしょうか?集団的自衛権の議論が深まらない一端が、ここにも見える気がします。