民進党代表選挙が告示され、蓮舫・前原誠司・玉木雄一郎の3氏が立候補しています。各地で演説、討論会、テレビ出演を行い、3者3様の主張をしていますが、経済政策では揃って「人への投資」を目玉に据えています。
<民進党代表選(15日投開票)では、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」への対案をどう打ち出すかが焦点の一つだ。3候補はいずれも分配重視の立場から教育無償化など「人への投資」を訴えるが、財源確保をめぐっては違いがある。>
人への投資はいいけれど、まず成長しなくてはその原資がないではないか、成長が必要なのに3氏は揃って消費税率10%への引き上げを容認していて、これでは景気が冷え込んでしまうではないか。あるいは、そもそも憲法についての見解もまとめられない政党は政党としてどうなんだ?などなど、批判しようと思えばいくらでも出て来るんですが、ここで私が注目したいのは教育について。「人への投資」の中心は教育への投資です。
<民進党は7月の参院選で「人への投資」を掲げており、3候補ともこの路線を推進する姿勢を示す。蓮舫、前原両氏は小学校入学前の幼児教育無償化を公約。玉木氏は「教育・子育ての完全無償化」を政策の目玉に据えた。>
ただ、この財源についてはコントラストがあって、前原氏は「社会資本整備国債」、玉木氏は「こども国債」という教育などを目的とする新型国債を発行。一方、蓮舫氏は行革や埋蔵金などで賄うという主張をしています。いずれも、財政規律を念頭に置いた主張です。国債を発行と主張すると、必ずこういった批判をメディアから受けるからです。上記、時事の記事にもやはりありますね。
<ただ、国債に依存すれば、財政健全化が遠のくのは避けられない。>
では、教育を無償化するのにどれだけのお金がかかるのかというと...。
<「揺りかごから墓場まで」とまではいかないが、保育から大学まで無償化すると計約7・3兆円。この期間の医療費を含めても0.5兆円増の計7.8兆円でやれる。>
民進党の代表候補3人よりも、マツコさんの方がよほど肚の座ったプランを提示していますね。やるなら、医療費も含めて完全無償化した方が経済的なメリットも大きい。実は、教育への投資というものは経済的リターンがかなりあることが研究で証明されています。ちょっと古いんですが、OECD(経済協力開発機構)の資料にもその旨記述がありました。
<まず第一に、教育投資に対する経済的リターンは特に高等教育段階で大きい。例えば、男子学生が高等教育の学位を取得することの純利益は OECD 平均で 82,007 ドルである。また、男子学生一人が大学などの高等教育を終了するためには、政府はOECD平均で 27,936 ドル投資する必要があるが、それが社会にもたらす経済的リターン(所得税の増加、社会保障費用の低下に伴うものなど)はその2倍以上の 79,890 ドルに達する。さらには、就学前教育についても、教育の投資リターンが高いという事例が注目されている。例えばアメリカでの調査によれば経済・社会的立場の弱い幼児に対する就学前教育が8-10%の投資リターンを得たという結果がある。つまり、教育は平均的な人が富を得るための有効な手段である。>
マツコ案の教育費、医療費を成人まですべて無償にしても7兆円。7兆円で、少なくとも8~10%、高等教育に絞れば2倍以上の利回りが期待できるわけですね。国債の金利がマイナスに沈むような我が国で、投資先としてこれだけ魅力的なものはそうあるものではありません。
ではなぜ、政治家たちが教育への投資に躊躇するのか?それは、「財政規律」という呪いのワードがあるからですね。2020年までにプライマリーバランスを黒字にするという財政健全化目標に縛られて、こうした投資が出来ずにいるのです。なんともったいない!
しかし、諦めるのはまだ早い。今回の経済対策にヒントがありました。事業規模28兆余りに上る経済対策の目玉は、13兆円規模の財政措置。その内訳は、7.5兆円の財政出動、いわゆる真水と、7.5兆の財政投融資です。財政投融資とは、政府が財投債という国債の一種を発行し、調達した資金を民間では対応困難な長期・低利の資金供給や、大規模・超長期プロジェクトへ資金を融通する制度。
今回注目されたのは、この財政投融資はプライマリーバランスに影響しないという点。赤字国債を財源とすると、プライマリーバランスが悪化すると大批判を受けますが(そんな批判自体がナンセンスなのではないかというのは置いておいて)、財投ならその心配はありません。今回の経済対策では、この財投を使ってリニア新幹線の大阪延伸プロジェクトへの資金提供など、大規模・超長期のインフラ投資へ活用されています。それゆえ、インフラ投資にしか使えないのではないか?というイメージがありますが、実はこの財政投融資、教育分野にも十分に使えますし、すでに実績もあるのです。
ここには、日本私立学校振興・共済事業団や独立行政法人日本学生支援機構という名前が並んでいます。また、地方公共団体向け財政融資のページには、<地方公共団体が行う事業のうち、災害復旧事業、辺地・過疎対策事業のように国が責任を持って対応すべき分野や、公共事業等、教育・社会福祉施設等整備事業のように国の政策と密接な関係のある分野を中心として、財政融資が活用されています。>と記されていて、教育分野にも活用可能である旨書かれているのです。
考えてみれば、「人は石垣、人は城」という言葉がある通り、ある意味で国を支える基礎のインフラの一つは人材の育成のはずです。ある人が成人するまでという20年、納税者になるまでは30年、40年の超長期プロジェクトですから財政投融資の目的にも適っています。その上、リターンは少なく見積もっても8%~10%と高利回り。対象となった人たちが日本国籍から離脱しない限り納税をしてリターンを生み出すので、債務不履行になる可能性もとても低い。あとは政治の決断一つなのではないか?と思うのですが...。