先月末には日本経済にインパクトを与えるニュースが様々ありました。まず、日銀はサプライズで追加の金融緩和策を決定しました。
<民間金融機関が日銀の当座預金に一定以上のお金を預けた時に金利がマイナスとなって手数料を払う「マイナス金利政策」を日銀として初めて導入する。>
<具体的には、民間銀行が、余っているお金を日本銀行に預ける際に適用される金利の一部を、現在のプラス0・1%から、マイナス0・1%に下げる。日銀は今後必要な場合は、さらに金利を引き下げるとしている。>
これについては、実は今まで積んできた預金には今まで通り0.1%の金利が付くので、マイナス金利になるのは今後新たに積み増す当座預金のみ。今まで利息を受け取っていた銀行が収益を圧迫され結果として融資が減ってしまうのではないかという批判もありますが、中身というとさほどの変化はなさそうです。
次に、その前の日に発表された経済閣僚の辞任。甘利経済再生担当大臣が金銭授受疑惑の責任を取って辞任しました。
<甘利経済再生担当大臣は、事務所が建設会社から現金を提供されたなどと報じられたことを受けて記者会見し、建設会社の関係者からの政治献金を受け取っていたことを認めました。そのうえで、「閣僚としての責務、および政治家としての矜持(きょうじ)に鑑み、本日ここに閣僚の職を辞することにした」と述べ、今後の国会審議への影響などを考慮し、閣僚を辞任する意向を明らかにしました。>
経済の司令塔の辞任。政権への打撃はもちろんですが、それ以上に日本の経済への影響も懸念されます。それゆえ、直ちに後任が発表されました。石原伸晃氏です。
<甘利氏の後任の石原氏は28日夜、皇居での認証式を経て正式に就任した。石原氏は首相と懇意で、自民党幹事長や政調会長などを歴任。小泉内閣では国土交通相などを務めたほか、安倍首相が政権に復帰した12年12月から14年9月まで環境相も務めた。>
急きょ登板となった石原さんは非常に重い責務を背負いました。甘利さんがしていた仕事はある意味で相反する2つの仕事を背負っていたものなのです。内閣府の官僚で甘利さんの部下に、この騒動が起こるはるか前に聞いた話なんですが、
「甘利さんは経済再生担当大臣でありながら、経済財政担当大臣でもあるんです。これが、特に消費増税への対応で二律背反に陥ってしまうんです」
と言っていました。
要するに、経済"再生"担当としては、成長を押しすすめる必要がある。経済成長を考えれば、景気を冷やす消費税の再増税は出来る限り避けたい政策です。8%に上げたときの予想をはるかに上回る負のインパクトを見れば、そして現状の景況感、この踊り場のような雰囲気を考えると避けられるのであれば避けたいとなります。
一方、経済"財政"担当としては別の判断もあるのです。財政の継続ということを考えると、財政再建の方向性も出さなければならない。霞が関で財政再建・税収増と言えばこれはほとんど消費増税と同義となっています。経済財政担当として官僚の助言を100%鵜呑みにすれば、当然消費増税推進となるわけです。甘利さんは控え目ながら「増税よりも成長による増収で」と言っていたのは、霞が関の常識からすれば外れていたわけですね。
では、後任の石原氏はどういった判断をするのでしょうか?石原氏は、財政規律を重視する自民党税制調査会の幹部。重要事項を決める"インナー"の1人でした。となると、やはり財政再建を重視し、霞が関の常識通り消費税の予定通りの再増税を推し進めるのか?そうした憶測記事も出てきています。
<自民党の税制調査会メンバーだった石原氏は財政規律を重視するとみられる。景気重視の菅氏と財政規律に重きを置く麻生氏との間でバランス調整役を果たしてきた甘利氏からの交代によって、「財政再建派が力を盛り返すのではないか」(閣僚経験者)と見る向きもある。>
経済再生を重視するか、経済財政を重視するか?どちらを重視するかはご本人の判断次第ということになりますが、この人事、霞が関のパワーバランスにも影響を及ぼす可能性があります。内閣府の官僚に取材をすると、
「甘利さんは各省庁の縦割りで進まなかった案件に体を張って風穴を開けて行っていた。新大臣にそこまでの力を期待できるのか...」
と言っていました。今まで経産省が引っ張ってきたこの内閣の意思決定にも影響を及ぼす可能性があります。
さらに気になるのが、こちらのニュース。
<政府は本田悦朗内閣官房参与を退任させ、大使として転出させる方針を固めた。早ければ来月の人事検討会議で正式に決める。政府関係者が27日、明らかにした。本田氏の赴任先は欧州となる方向。>
このニュース。その後全く追いかける記事が出てきていないのでずっと気になっていたんですが、周辺を取材するとそれなりの確度があるようです。まず、ご本人もかねてから経済外交を最前線でやりたいということを語っているとのこと。今月にも発令というという噂もあるんですが、何と言っても本田参与は消費税増税を巡って慎重論を展開している人物。本人は「いつでも電話一本で総理の相談に応えることが出来るから心配は要らない」と周囲に語っているようなんですが、果たしてそう上手くいくかどうか。
今までは何かあればすぐに馳せ参じて、面と向かって総理と話が出来る安心感がありました。総理が休みに入れば、いの一番にゴルフを共にし、様々な話が出来る安心感がありました。電話一本がそれと同等の安心感を担保できるのでしょうか?甘利さんに加えて本田参与まで失えば、消費税増税慎重派が退潮し、増税派に押し切られるのではないかという警戒感が高まっています。