暖冬だと言われていた今年の冬ですが、ここへ来て列島各地、雪に悩まされています。今日もマイナス10度を超える寒気が南下し、列島各地、沖縄本島まで観測史上初の雪が降りました。
<この冬、最も強い寒波に見舞われた日本列島では、各地で記録的な大雪となっている。この雪の影響で、交通機関にも影響が出ている。
空の便は各航空会社とも、長崎や鹿児島など西日本の各空港を発着する便を中心に欠航が出ている。25日正午現在で、全日空で54便、日本航空で34便、日本エアコミューターで19便、スターフライヤーで12便、スカイマークで8便などとなっている。各航空会社はホームページなどで最新の状況を確認するよう呼びかけている。
一方、鉄道は、JR西日本によると、沿線一帯に降り積もった雪の影響で、山陽新幹線は始発から速度を落として運転している。>
今回は西日本を中心に雪が降り、鉄道、航空など交通インフラに大きな影響がでましたが、先週は関東が雪の大打撃を受けました。
<週明けの18日の朝、首都圏に降り積もった雪の影響で、東京都心の交通網は運休や遅延などが相次いだ。通勤・通学に混乱が生じたほか、車のスリップ事故や歩行者の転倒事故で消防が出動した。>
<運転見合わせとなったJR青梅線。小作駅(羽村市)では足止めされた通勤、通学客が構内からあふれ、付近のコンビニやハンバーガーチェーン店までいっぱいになった。勤務先とひんぱんに携帯電話で連絡するスーツ姿の会社員や、待ち時間に英語の参考書を読む高校生もいた。>
「雪に弱い都心」という文言は、毎年雪が降るたびに見出しに踊るわけですが、今回は特別でした。記事にもある通り、普段の半分程度に運転本数を減らしたことで集まった乗客をさばききれず、駅への入場制限をかけざるを得なくなりました。
どうしてこんなことになったのか?雪で電車が遅れる原因は様々ありますが、最も大きな原因はポイント故障です。ポイント、つまり線路が2つに分かれたり、あるいは合流したりする部分で、この切り替えの部分が動かなくなると、電車が通れなくなりダイヤが大幅に乱れます。
<ポイントは「転轍機」と書きます。轍はわだち(車輪の跡)のことで、路線を変える装置です。つまり、列車の通り道を切り替える装置で列車運行上、重要な役目をもっています。>
<ポイントの泣き所は厳しい寒さに弱いことです。とくに大雪の日などはポイントが凍りついて動かず、ダイヤ混乱の原因となります。しかし、最近は雪の日に一晩中電車を走らせたり、ポイントを暖めるなどして正常運転が確保されています。>
民鉄協会の説明にある通り、電車を走らせることで凍らないようにする、あるいはポイントヒーターで雪や氷を溶かしたりして対策しています。ただし、ヒーターは一つ一つのポイントに設置するには非常にコストがかかる。それゆえ、前者の電車を走らせるということで凍結防止しようとします。
では、雪の朝に切れ目なく電車を走らせられるか?
晴れていれば、朝のラッシュ時など切れ目なく列車を走らせることが出来ますが、大雨や雪の時には駅での乗客の乗降に余分に時間がかかります。雪の降り方によっては、速度制限を掛ける必要もあり、それも遅れにつながります。それやこれやで、じわじわと遅れが蓄積されていき、場合によっては列車が渋滞してしまうような事態に発展してしまう可能性があるわけです。そうなると、切れ目なく走らせてポイント凍結を防ぐことができなくなります。そこで、事前に列車の本数を減らして、駅間は走り抜けられるように設定したわけですが、今回はそれが裏目に出たんですね。
さらに問題を大きくしたのが、降ったタイミングの悪さと雪の質の悪さでした。ある鉄道会社の保線担当幹部は、
「降りはじめが深夜で、3時4時ごろからピークを迎えたのは最悪だった。あの時間帯は(車庫からの)出庫の時間帯。そこで雪が積もって架線にトラブルを抱えると、他の無事な列車の出庫にも影響する。京王線が大混乱したのはまさにそれが原因」
と話してくれました。
<特にひどかったのが多摩地区と新宿を結ぶ京王線。雪で車庫の架線が切れて車両が出せなくなるなどして一時、通常の2~3割の本数で運行。ただでさえ大混雑する路線での間引き運転で、世田谷区の千歳烏山駅などではホームに人があふれた。>
これには少し説明が必要です。
鉄道の架線というのは、街中の電線とは違って雪の重みで切れてしまうような弱いものではありません。かなり強い力でピンと張るように設計されていますので、雪ごときではびくともしません。むしろ弱いのは、電気を集めるパンタグラフ。ばねや空気圧で架線に押し上げ、架線に押しつけて電気を取っているんですが、これが雪の重みで下がってしまうそうなんです。して、ある程度架線とパンタグラフの間に空間が出来てしまうと、スパークしてしまい、その熱で架線が溶け切れてしまうようなんですね。出庫の際には運転士がぐるっと電車の周りを回って点検をしてから電車を動かします。パンタグラフ周辺に雪が積もっていれば、場合によっては雪を落としてから出すこともあるでしょう。しかし、雪の勢いが強ければだんだんと積もっていく。そして、悪いことにちょうど車庫の出口付近に差し掛かった時に架線が切れてしまうと、後ろの電車たちは出せば活躍できるのに全く使えなくなってしまうのです。
それからもう一つ。雪の質の悪さ。我々は雪が降ったんだから本格的な冬が来たと思いがちなんですが、前述の保線担当幹部は、
「いや、あの雪はむしろ暖冬の証拠ですよ。だって、水分をたっぷり含んでベシャベシャだったでしょ?あんなに重い雪は春の雪。本来この時期の雪はもっとサラサラしていて積もるまでに時間がかかるものなんだけど、今回は想定よりもかなり早く積もった。その結果、想定よりも早くパンタが下がってしまったんだと思う」
と分析してくれました。
雪の質の悪さ、降りはじめのタイミング、そして運転本数の減少。これらが作用して、先日の交通混乱が引き起こされました。
同じ雪が降っても、それが昼間や夕方、夜ならここまでの大混乱にはならなかったでしょう。朝は何百万という人がほぼ同じタイミングで都心へ向けて毎朝大移動しているわけで、そこで雪が降り電車が止まると、即座にあれだけの大混乱になるわけです。
最近、台風接近の時には早めに仕事を切り上げて帰宅を促すということが定着しつつあります。ところが、朝に関しては雪が降ろうと大雨になろうと電車が動いていれば出勤すべきという空気がいまだにあるようです。前日までの報道を見ていると、「雪が降るので早めに家を出るべき」と繰り返されていましたが、むしろ朝こそオフピーク、仕事の開始の後ろ送りを言うべきだったのではないでしょうか?
都心の朝の大雪が、日本人の働き方への疑問を投げかけています。