先週は鉄道に興味がある者にとっては気になるニュースが相次ぎました。まずは、この酷暑が鉄道マンたちの仕事にまで影響を与えているというニュース。
<4日午後1時55分頃、和歌山市のJR阪和線を走行していた新大阪発新宮行き特急「くろしお13号」(乗客約210人)の男性運転士(29)が体調不良を訴え、紀伊駅で臨時停止。運転士は病院に搬送された。同市消防局によると、運転士は体が熱っぽく、軽度の熱中症の症状が見られたという>
<5日午後3時半ごろ、奈良県大和高田市高砂町のJR和歌山線高田駅で、ホームに停車中の奈良発和歌山行普通電車の男性運転士(31)が体調不良を訴えた。
奈良県高田消防署は熱中症の可能性があるとして運転士を救急搬送した。>
冷房が効いているはずの電車の中で、なぜ運転士が熱中症になるのか?首都圏の鉄道マンに取材してみると、意外と過酷な仕事の内容がわかりました。まず、冷房についてですが、基本的に冷房はお客さんのために設置されているもの。乗務員室には冷房はあっても客室の空気を取り込むだけですから、どれだけ乗務員室内が暑くても客室が暑くなければ室温は下がらないそうです。読売新聞の記事にある通り、特急くろしおは前面が大きなガラス張りの「パノラマ型」なので、まるで温室のようになってしまうそうです。また、途中トイレに行きたくなったりしないように乗務前や乗務中は水分も控えるそうですから、意外と熱中症になりやすい職場のようですね。
一方、運転士のミスにより大事になったと言われているのが、先日のJR京浜東北線架線切断事故。首都圏のJR各線で運転の見合わせが相次ぎ、35万人あまりに影響が出ました。
<横浜市内のJR京浜東北線で架線が切れ、首都圏の各線で運転見合わせが相次いだトラブルで、JRが原因を調べたところ、本来は停止できない架線のつなぎ目の区間に電車が止まり、再び発車した際にショートが起きて架線が切れた可能性が高いことが分かりました。>
<JR東日本が調べたところ、架線が切れた現場は「エアセクション」と呼ばれる架線のつなぎ目の区間で、電圧が異なる2本の架線があるため、ショートを起こす危険性があるとして、本来は停止できない区間だったことが分かりました。
しかし、4日夜は電車がエアセクションの中で停止したため、再び発車した際に架線と車両のパンタグラフの間でショートが起き、その熱で架線が溶けて切れた可能性が高いとみられています。>
電車に電気を供給する方法はいろいろありますが、日本の鉄道の場合は線路の上に張った架線からパンタグラフを介して電気を取り込む方法が主流です。架線は始発から終点まで切れ目なく張られているように見えますが、実は違います。変電所で電圧を上げて架線に電気を流しますが、変電所から遠ざかれば遠ざかるほど減衰していきます。したがって、変電所から遠くにいる電車はパフォーマンスが悪くなります。それを避けるために、変電所を沿線にいくつも置き、ゾーンに区切って電気を流している。これが現代の電車のシステムです。そして、そのゾーンの区切り、つなぎ目が、先ほどの記事になる「エアセクション」と呼ばれます。
記事にある通り、ここは2つの電圧の異なる架線があるのでショートを起こす危険性があり、本来は停止できない区間なのです。なぜ停止できないかというと、停止そのものが問題なのではなく、その後動き出す時に大量の電気を必要とし、その際にショートしてしまう。今回もショートの際に発生した大量の火花が架線を焼き切ってしまったということです。これは、鉄道に関わるものとしては初歩の初歩。鉄道マンを養成する高校では原理の部分で教えもするし、シミュレータにもエアセクションでショートするという現象が出てくるそうです。
初歩的なミスが甚大な影響を与えるということで、鉄道各社はエアセクションには標識を置いて乗務員に注意喚起しています。JR東日本ももちろんそうです。
そこで問題は、そうした危険のあるエアセクションにどうして止まったのか?JR東日本によれば、
<4日夜は、花火大会による混雑で電車に遅れが出ていたということで、運転士は「前の電車が見えたためブレーキをかけて止まりやすいところで停止させた。運転の制御システムがあるためエアセクションの中で止まる可能性があるとは認識していなかった」と話しているということです。>
ということで、こうした説明をされると「ああ、やはり運転士の停止位置ミスが原因か」となってしまいます。そうした運転士ミス説の報道は多いのですが、地元の神奈川新聞は見出しはともかく詳しく取材しています。
<京浜東北線は自動列車制御装置(ATC)を導入しており、先行列車と間隔が詰まるなどした場合は、自動的に列車速度が低下し、エアセクションを外れて停車する仕組みになっていたため、標識などの対策は取っていなかったという。>
標識などが一切ないところで、ダイヤが乱れている中、前の列車に接近し停車させた場合、止まったところがエアセクションかどうかなど運転士にわかるはずがありません。運転士のミスではなく、システムの問題であったことは明白です。今後JR東日本は、エアセクションの中に電車が低速で進入した際に自動的に警告音が流れ注意を促すシステムをこの路線に導入するほか、運転士の教育を徹底するとしています。しかし、そもそもエアセクションがどこだかもわからないままで教育も何もあるのか?コストはかかるかもしれませんが、セクション標識を設置しなくては真の再発防止策とは呼べないのではないでしょうか?