アメリカ軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けて、先週末、菅官房長官と翁長沖縄県知事の会談が行われました。
<沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設計画を巡り、政府と沖縄県の対立が深まるなか、菅官房長官と沖縄県の翁長知事が初めて会談しました。菅官房長官が、普天間基地の危険性の除去に向けて計画への理解を求めたのに対し、翁長知事は計画の断念を求め、会談は平行線に終わりました。>
会談前から菅官房長官は、一度の会談だけで物事がいきなり進むことは考えづらいと語っていた通り、会談は平行線に終わったようです。しかし、今後も話し合いを続けようということでは一致したとのことで、一歩前進と評価する新聞がある一方、対立は深まったという意見もあります。
会談では、いくつかの数字が紹介されて、沖縄の基地負担などの課題が論じられました。まず、「約74%」という数字です。
<菅官房長官:政府としては国土面積の1%に満たない沖縄県に約74%の米軍基地が集中していることについて、沖縄県民に大きなご負担をお願いしていることについて重く受け止めている。>
<翁長知事:沖縄は全国の面積のたった0・6%に74%の米軍専用施設が置かれ、まさしく戦後70年間、日本の安全保障を支えてきた自負もありますし、無念さもあることはあるんですよね。>
翁長知事が正確に言っているんですが、沖縄は全国の面積の0.6%に、アメリカ軍の「専用」施設のうちの74%が置かれています。この、「専用」施設というのがクセもので、自衛隊との共用施設はこの数字には入って来ません。では、どんなところが共用施設かというと、防衛省がその一覧を出しています。
ちょっと小さな字で見づらいんですが、よくよく見ていくと、米軍にとって重要な施設は共用施設に置かれています。たとえば、在日米軍司令部と第5空軍司令部が置かれている横田飛行場、アメリカ海軍第7艦隊の司令部が置かれている横須賀海軍施設、在日アメリカ陸軍司令部が置かれているキャンプ座間、空母艦載機を受け入れる厚木海軍飛行場、海兵隊航空部隊が常駐する岩国飛行場、第7艦隊の一部が駐留する佐世保海軍施設などが、共用施設の中に入っているのです。ということは、先に挙げた「74%」の母数にはこれらの基地は入っていないということになります。今挙げた施設は、誰しもが本土のアメリカ軍基地と言われれば名前を挙げるメジャーな基地。「74%」と言われると沖縄の圧倒的な負担感がある気がしますが、実際にこれらの基地が数字の中に入っていないと言われるとちょっと違和感がありますよね。
では、これら共用の基地も含めた全体に対しての割合はどうかというと、これ、実は沖縄県の資料にもしっかり書き込まれています。
<(オ)米軍施設・区域の全国比
全国の米 軍 施 設 ・ 区 域 :132施設 1,027,153千㎡
本土の米 軍 施 設 ・ 区 域 :99施設 795,393千㎡
沖縄の米 軍 施 設 ・ 区 域 :33施設 231,761千㎡
全国に占める本県の比 率 : 25.0% 22.6%>
ということで、全体では22.6%で北海道に次いで2番目ということになります。ただ、これは年に一度使うか使わないかという広大な演習場まですべてを含んだ数字ですから、この「約23%」という数字だけをもって沖縄だって他の都道府県と同じくらいの負担だということはできません。しかしながら、「74%」と「23%」では印象が全く違いますから、負担の軽減を議論するのであれば、まずは数字を正確に理解する必要があります。
また、沖縄県内の基地負担軽減についても翁長知事は数字を基に政府を批判しています。
『<翁長知事冒頭発言全文>「粛々」は上から目線』(4月6日 琉球新報)http://goo.gl/OUzv52
<翁長知事:嘉手納以南の相当数が返されると言うんですが、一昨年に小野寺前防衛大臣が来た時に「それで、どれだけ基地は減るのか」と聞いたら、今の73・8%から73・1%にしか変わらない。0・7%だ。
なぜかというと那覇軍港もキャンプキンザーもみんな県内移設だから。県内移設なので、普天間が4分の1の所に行こうがどうしようが、73・8%が73・1%にしか変わらない。
官房長官の話を聞いたら全国民は「相当これは進むな」「なかなかやるじゃないか」と思うかもしれないけれど、パーセンテージで言うとそういうことだ。>
たしかに、面積の議論で言えば73.8%から73.1%に減るに過ぎません。しかしながら、この負担軽減の問題を面積で考えるのは少し問題があります。そこには土地の利用価値、経済性が考えられていないからです。
具体例を挙げれば、面積で考えれば沖縄県で一番広大な米軍施設は北部演習場です。先ほど参照した沖縄県が出した資料、『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)平成26年3月』によれば、沖縄県全体で231平方キロあまりに対して、北部演習場は78平方キロあまり。占有率は33%強となります。私も何度か沖縄に取材に行きまして、北部演習場にも行きましたが、ここは沖縄本島北部の森林地帯。山あり川あり林ありのジャングルです。
仮にこの北部演習場が返還されたとすると3割強の負担軽減になるわけですが、面積にこだわる翁長知事にとっては、それでいいのか?返還されても使い道のないジャングルよりは、面積は小さくとも経済的メリットの大きい嘉手納以南の返還を選ぶ方が合理的な選択と言えるのではないでしょうか?73.8が73.1にしか減らないから政府は仕事をしていない、まやかしだと批判するのは、批判のための批判にすぎない気がします。
一事が万事、今後も話し合いを続けるということであれば、現状に沿った冷静な議論を期待したいと思います。