『防災の日』ということで、日本各地で訓練が行われています。東日本大震災の際の「トモダチ作戦」の活躍などがあって、最近では在日アメリカ軍もこの訓練に参加することもあるようです。
<訓練は、南海トラフでマグニチュード9級の巨大地震が発生し、広範囲に津波が来襲するとの想定で実施。応援要請を受けた在日米軍は、神奈川県のキャンプ座間から隊員ら5人搭乗のヘリ1機を飛ばし、救援物資を陸上自衛隊に輸送後、患者を収容する手順を確認した。>
<訓練は、周辺5市1町から集まった支援物資を、米軍のヘリで東京臨海広域防災公園(江東区)まで運んだ後、陸上自衛隊のトラックを利用して被災地の杉並区まで搬送するという内容で行われた。>
<(静岡県)下田市吉佐美の沖合では、米空軍が水やコメなどの支援物資を海上にパラシュート投下し、漁船で回収する訓練が国内で初めて行われた。>
ただ、こうして米軍が訓練に参加すると、必ず起こるのが抗議行動。たとえば、米軍ヘリが参加した兵庫・芦屋の訓練については、
<「米軍参加は軍事力機能強化が目的で、軍国化の一歩」との反対アピールを確認。>
ただ、素朴に思うのは、命を救ってくれるのなら米軍も自衛隊も警察も消防も関係ないと思うのですが...。まあ、本土なら自衛隊や近隣都道府県・市町村の警察、消防が駆けつけてくれるので日本人が自力で何とかなるかもしれません。それゆえ、「米軍の支援なんて要らない!米軍参加は軍事力強化目的!」と抗議もできるのかもしれませんが、日本国内には本来そうも言っていられないところもあります。
それが、沖縄です。
実は沖縄も地震とは無縁ではなく、「沖縄トラフ」(東シナ海側)、「南西諸島海溝」(太平洋側)という2つの地震の巣に挟まれています。沖縄県は、この2つを震源とするマグニチュード8クラスの地震が起こった場合、どの程度の浸水が予想されるのかを発表しています。
これによれば、物流の拠点となる那覇港で8.7m、那覇空港では11.6mの津波が押し寄せるとしています。となると、沖縄県の海と空の玄関は津波被害により使用不能になることが予測されるわけです。ここで忘れていけないのが、沖縄県と鹿児島県にまたがる南西諸島の長さ。日本最西端の与那国島から本土までの距離というのは、実は日本列島を丸ごと呑み込むだけの長さがあるのです。実感よりも距離はあるのですね。そして、空港も港もダメになった時に、本土から救援物資を迅速に運ぶことができるのか?そう考えると、ある程度の期間は沖縄の中で、自力でしのぐタイムラグが出来てしまうのはやむを得ません。その時に、どう備えるのか?日本人だけでしのげるのか?在日米軍との協力も視野に入れるべきではないのか?
こういった、沖縄の防災と米軍との協力について、今年4月、一冊の提言がまとめられました。
発行したのは、NPO法人沖縄平和協力センター。東日本大震災を契機に、足掛け丸2年かけて作られました。
この第1章、政策提言要旨の第1項に、
<沖縄県内には在沖米軍基地をめぐり政治的な問題が存在する。しかし、在沖米軍は、災害時の減災の要として重要な役割を果たすものであり、地域の災害への備えとして政治的な問題とは切り離して考えなくてはならない>
と謳っています。何しろ、沖縄県に駐留している自衛官の総数はおよそ6300人。一方、沖縄にいる米軍人はおよそ2万6千人。軍属及び家族を含めるとおよそ4万7千人に上るといいます。自衛隊は本島以外にも離島のケアも受け持ちます。本島に避ける人員がどの程度かと考えると非常に心もとない。その上、沖縄本島の自衛隊は陸・海・空の司令部をはじめ、ほとんどが那覇空港近くに集中しています。その那覇空港は11.6mの津波が押し寄せるというのです。初動でどこまで動けるのか...?推して知るべしというもの。
とはいえ、1から10まで米軍任せとなると日本の主権にかかわる問題になる。緊急時とはいえ、米軍の軍政というわけにはいかない。そこで、在沖米軍と在沖自衛隊の連携を中心に、県が間に入ってリーダーシップを発揮するという枠組みを平時に作っておくことに主眼を置いています。現在は、市町村単位で緊急避難先として米軍基地を使ったり、緊急時に米軍基地を通って高台へ避難したりという協定は結んでいますが、それだけでは足らない。全島・全県をカバーする包括的なものを作って、実際にその枠組みで訓練もするべきだと提言しているのです。
たしかに、米軍基地が沖縄に集中しすぎているのは問題で、沖縄の負担軽減は喫緊の課題であることは誰もが認めることです。ただ、現状、これだけ米軍基地があるわけですから、それを使わない手はない。原理原則論で米軍基地そのものがまるで存在しないかのような避難計画では意味がない。これは本土で抗議する方々にも言えることですが、原理原則論では人の命は救えません。とかく原理原則の議論が沸騰しているように見える沖縄で、リアリズムに徹した提言書が地元から出てきたということに驚き、先日、日本記者クラブで行われた会見に行ってきました。この沖縄平和協力センターの理事長は、稲嶺・仲井間両知事の知事公室長を務めた行政の大ベテラン。
私が、「よくこんなリアリズムに徹したものを沖縄で作れましたね」と聞きますと、「こんなもの、現役じゃ出せませんよ」と、首をすくめました。本来、一朝有事の際には人の命がかかってくる現役の行政マンこそ考えなければならない問題。沖縄の議論の複雑さを垣間見る一瞬でした。いつになったらリアリズムで議論ができるようになるのか?県知事選の争点になることはあるのでしょうか...?