このところ、人手不足に関する報道が様々なところでされるようになってきました。特に、サービス業や製造業、建設業などで深刻で、業績を圧迫しているという論調です。
< アベノミクス景気の副作用ともいえる労働力不足が、製造業、非製造業を問わず、企業活動に深刻な影響を広げている。東京五輪をにらんだ工事需要が増えている建設業だけでなく、デフレ下で低価格を武器に成長してきた外食、小売り、格安航空、さらには地方の中小企業などでも状況の悪化が続く。>
<人手不足が懸念されるなか、先月までの3か月間にアルバイトや中途社員の採用で必要な人数を確保できなかった企業が全体の3分の1に上ることが、民間の調査で分かりました。>
2つ、代表的な報道を引きましたが、それ以外も人手不足が景気の足を引っ張る可能性があるという論調で、ロイターに至っては、人手不足問題は「アベノミクスの副作用」とまで断定しています。そして、どの記事を読んでいても、企業側の対応策や望ましい解決策として「外国人労働者の導入を視野に」しましょうという流れになっています。
上記、ロイターの記事では、みずほ総合研究所のシニアエコノミスト、山本康雄氏の話として、
<「労働市場をもっと流動化させる努力が必要だ。それによって成長産業へ人材をシフトする一方、外国からの移民も含めた労働者数の拡大も必要になる」>
と紹介し、NHKも控え目ながら、
<「人手不足への特効薬はなく、企業は、少ない人員で業務を進められるよう、人材活用を構造的に見直していく必要がある」>
として、まずは効率化を図るべきとしています。
しかし、人が欲しいなら、なぜ「賃上げ」しないんでしょうか?我が国は完全雇用の状態ではありません。アベノミクスで景気が回復したおかげで徐々にその状態に近づいていますが、それでも5月の失業率は3.5%。まだ未就業の人がいる以上、その人を振り向かせるためには雇用条件を良くすること、すなわち「賃上げ」するのが一番手っ取り早いと思うんですが、なぜそれを解決策として書かないんでしょうか?もちろん、企業に取材すれば、固定費が増大する賃上げをするなんて口が裂けても言わないでしょう。それ以外の方法があれば、まずはそこに誘導すべく努力するでしょう。しかし、それは企業経営者の視点。メディアはそれはそれとして大局的にどうすることが望ましいかを考えるべきなのではないでしょうか?もともと総理は「賃上げが最終目標」と繰り返していて、経済3団体にも繰り返し繰り返し申し入れを行っていました。ということは、賃上げをしなければ人手を確保できない、周りの環境が賃上げせざるを得なくなっているというのは正しい流れなのではないでしょうか。
しかも、現状で「実質賃金」はむしろ下がっています。
<現金給与総額についても、速報値の前年同月比0.8%増の26万9,470円から同0.6%増の26万8,859円に下方修正。現金給与総額に物価変動の影響を加味した実質賃金指数も、同3.6%減から同3.8%減に下方修正し、11カ月連続で前年を下回った。下げ幅は前月より拡大し、2009年12月(同4.3%減)以来の大きさとなった>
たしかに春闘の結果、大企業を中心に賃上げはあったものの、物価も上がったせいで実質的に買えるものが少なくなったというのは、最近の肌感覚でも納得できるものです。ここで賃上げではなく、良くて効率化による現状維持、悪くすれば低賃金の外国人労働者導入による賃金抑制となれば、GDPの6割を占める個人消費が間違いなく冷え込みます。GDPが増えなければ、当然不景気ということになり、デフレ脱却の芽を摘み取ることになりかねません。そうなれば、結局国内企業の業績だって落ち込んでしまうかもしれません。どうも企業は目先のコストカットに目を奪われるあまり、長期的な利益を逸しようとしているように見えます。むしろ、過去20年間のデフレで賃金が抑制され続けてきたそのツケを、ようやく企業が払うときが来たということではないでしょうか?
まとめれば、人件費をどう捉えるかという問題なのでしょう。
「必要悪のコスト」と捉えれば、とにかく抑制することが企業経営のセオリーとなるでしょう。
一方、雇用者はイコール消費者であると考えれば、賃金の過度な抑制は回りまわって消費を冷え込ませ、最終的には企業経営を圧迫することになります。したがって、人件費を「リターンをくれるお客さんへの投資」と捉え、適正水準を維持する、場合によっては賃上げをするということになります。
企業はどうも前者と捉え、経済マスコミもそんな企業の見方をそのまま報じているような気がしてなりません。その結果、賃金抑制が世の中の流れになっていき、結果として国民経済を冷え込ませるようなことがあっては元も子もありません。大局的観点から考えると、まだまだ賃上げが足りないと私は思うのです。