衆参ダブル選挙という言葉がチラホラと新聞紙上、雑誌の広告などで見かけるようになってきました。私自身は、3月に東京地裁が先の衆院選を「違憲」と判断した時にこのブログに、「改憲を主張する以上は、解散総選挙をすべきだ。そうなればダブル選挙だ」と書きました。(http://bit.ly/123bwiG)
その後96条改憲の議論が盛り上がりかけ、今回の橋下発言などがあり急速に下火になりましたが、さりとて現在の衆議院議員が違憲状態の選挙の下で選ばれたという批判は甘んじて受けなければなりません。参院選後の改憲論議を考えると、障害は一つでも取り除いておかなければならない。そう考える安倍官邸が衆参ダブル選挙を考えても理論上おかしくはないわけです。3月の時点では、衆院選の記憶生々しく、また選挙となると厭戦ムードにありましたが、さらに3か月がたって永田町も空気も変わってきました。ダブル選も、あながち冗談や妄想ではないわけです。
さて、ダブル選挙をするにも、様々な条件が整わないことには行えません。順に整理していきましょう。
まず、大前提として、このダブル選挙で衆議院選挙は「合憲」の下で行わなくてはなりません。すなわち、一票の格差を是正した上での選挙でなくてはいけないわけです。そのためには、衆議院を通ったあと参議院でいまだに審議に入っていない定数是正法案、いわゆる「0増5減」法案を成立させなくてはなりません。この法律改正は選挙の区割りを変更するもので、成立後すぐに施行し選挙というわけにはいきません。選挙区の線引きを変更したり、合併させたりするものなので、慣例としては成立後1か月ほどの「周知期間」を置く必要があります。つまり、公示日前日に施行するとしても、改正案成立から選挙の公示まで最低1か月必要ということですね。
ちなみに、「周知期間」は、官報による公布をもって期間入りとなります。公布には閣議決定が必要となりますので、成立→閣議決定→官報公布のタイムラグも頭に入れておく必要があります。さらに、衆議院選挙の場合、公示から投票日までの選挙運動期間は12日と決められていますから、投票日の1か月+12日+公布までのプラスアルファを考えて区割り法を成立させなければなりません。
ここで、カレンダーを持ってきましょう。今言われている参院選の投票日、7月21日から逆算して、どこが法案審議のデッドラインとなるのか計算します。7月21日の12日前の7月9日(火)が公示日。公示日の前日までに区割りが施行されていなければならないので、施行が7月8日(月)。となると、周知期間の一か月を考えると官報の公布は6月8日(土)。しかし、土・休日は官報は出されないため、6月7日(金)の官報で公布と考えると、それに先立つ閣議決定は、定例閣議なら火・金なので6月4日(火)。ここまでには法案が成立していなくてはならないわけですね。
今週アタマに審議入りをしたとして、採決までの審議期間は1週間強。与党は、ねじれの参院で否決されても、多数の衆院で3分の2以上をもって再可決して成立させるつもりですから、早く審議を始めてもらいたい。一方、野党はそれを見透かし、いまだ審議入りをせず、審議入りをしてもある程度きちんとした審議時間を要求しています。それにより衆参ダブルの時間切れを狙っているわけです。
となれば、スケジュールがかなりタイトになっているので、普通ならばこれで『ダブルはない。』となるわけですが、実はもう一つ裏ワザを使えばだいぶ時間を稼げます。それが、公職選挙法第32条。
(通常選挙)第32条 参議院議員の通常選挙は、議員の任期が終る日の前30日以内に行う。
2 前項の規定により通常選挙を行うべき期間が参議院開会中又は参議院閉会の日から23日以内にかかる場合においては、通常選挙は、参議院閉会の日から24日以後30日以内に行う。
3 通常選挙の期日は、少なくとも17日前に公示しなければならない。
改選の参院議員の任期は7月28日までですから、最大そこまでの国会延長が可能。そして、そこから計算すると、「閉会の日から24日以上30日以内」ですから、8月25日(日)投票日となります。仮に0増5減法案がこのまま宙ぶらりんになっていたとしても、「会期延長」の声が聞こえ始めると、ダブル選挙が近づいてきたというサインとなりそうです。
安倍政権の「3本の矢」のうちの第3の矢、成長戦略の第2弾が、今月17日(金)、日本アカデメイアの交流会で発表されました。
『農業改革やインフラ輸出で「世界に勝つ」、首相が成長戦略第2弾発表』http://on-msn.com/16uiQ8c(産経新聞)
キーワードは「世界で勝って、家計が潤う」。前回は再生医療や女性などに関する成長戦略でしたが、今回は農業改革やインフラ輸出などが主なテーマでした。
そもそも、安倍政権の成長戦略を議論する場は、経済再生本部の下にある産業競争力会議や、内閣府に設置された経済財政諮問会議、規制改革会議などなど。このところ、様々な会議で議題に上った様々な施策が新聞紙面をにぎわしています。その中には、解雇の金銭解決のように華々しく登場した割に、その後各方面から批判されて撤回したものもありました。多くの新聞の論調で期待されているのは、いわゆる『岩盤規制』をぶち破ること。たとえば、混合診療の解禁、株式会社の農地所有の自由化などということになります。
一方で、産業競争力会議では、民間議員同士の不協和音が聞こえてきます。巷間言われているのが、竹中・三木谷(楽天)・新浪(ローソン)VS岡(住友商事)・佐藤(みずほFG)という顔ぶれでの綱引き。とにかく規制をなくしていこう、岩盤規制を打ち破ろうという前者・構造改革派に対し、漸進的に変革していこうという後者。官僚としてはどちらが組みしやすいかといえば、それは後者。さらに、与党・自民党側の日本経済再生本部も、参院選を前に各支持団体の陳情を受け、後者のような漸進的な改革にとどめておきたいという思惑が見え隠れします。四面楚歌状態の前者・構造改革派は、野党・日本維新の会にも助けを求めました。ある維新国会議員は、構造改革派の民間議員から「外野からどんどん援護射撃をしてくれ」と頼まれたといいます。
そんな綱引きがだんだんと熱を帯びてきていますが、最終的にどのような形で表に出すか決断するのは、安倍総理の意向です。では、発表された今回の成長戦略第2弾は、どちら寄りなんでしょうか?それは、成長戦略をスピーチした交流会後の懇親会での挨拶にヒントがあります。
安倍総理「今日は当初は30分でスピーチを終える要求だったんですが、45分喋ってしまいました。なぜ長くなったかといえば、弾を籠めている最中ですから、その弾籠めが各省庁と調整しなくてはなりませんが、厚生労働省なんか一番抵抗する勢力なんですが、その抵抗によって弾として籠められない場合もありますので、その歩留まりを見て30分行くかなと思ったら、おかげさまでほぼすべて、今日申し上げたことは調整がだいたいできましたので述べさせていただいて、今日は時間が長くなったと」
少なくとも今回発表された成長戦略第2弾に関しては、すべて各省庁のお墨付きがついているものであることがわかります。今回の成長戦略第2弾は、いわば中間報告。当然、各省庁の既得権である岩盤規制を崩そうとするもの、紛糾しそうなものに関しては、このような中途半端なタイミングでの発表に入ってくるはずはありません。というか、各省庁が許さないでしょう。むしろ、官僚がやりやすいトピックを並べておくことで、それが翌日の新聞紙面を賑わし、相場観が形成されていく...。今までのところ、そうした漸進的改革派有利でゲームが進んでいるようです。では、そうした改革の本丸、岩盤規制の改革については「いつやるの?」ということですが、今回の交流会に参加したある企業経営者は総理のこんな発言を紹介してくれました。
「政治が政策実行能力を最も備えられるのは、選挙に勝った直後だ。成長戦略に絡む法案を選びながら行っていきたい。そして、だんだんと岩盤の硬いところとぶつかるような法案に当たっていく」
本格的に改革に着手するのは、やはり参院選後が濃厚のようです。今、「構造改革の夢を再び」と期待している新聞、テレビなどの大手メディアが、それまで待てますでしょうか?「やっぱり自民党は先祖返りした!バラマキばっかりじゃないか!」そんな見出しが踊らないよう、こうして出せる部分を小出しにしているようにも思えます。とはいえ、安倍総理が常々おっしゃるように、「政治は結果」なんですよね。中間報告に一喜一憂せずに、本決まりの成長戦略を待ちたいと思います。
日本維新の会共同代表、橋下徹大阪市長の発言が波紋を呼んでいます。
『橋下氏慰安婦発言:記者団との一問一答(要旨)』http://bit.ly/13XSYx8(毎日新聞)
「女性の人権侵害」(稲田行革担当相)、「私は与しない」(菅官房長官)、「論理の飛躍だ」(自民党石破幹事長)、「女性の人格、人権を軽視する発言」(公明党山口代表)と、政府・与党首脳からも批判が出てきています。参院選への影響も心配されますが、維新のある国会議員は
「発言そのものは全文を見れば、実は今までの保守の論客たちが言ってきたようなこと。慰安婦、いわば売春婦はいたかもしれないが、『従軍』慰安婦という、軍、あるいは国が主導・管理したシステム、施設は存在しなかったという論調はさほど目新しいものではないので、ある意味反論は可能なんだが、発言の中で慰安婦『制度』という言い方をした。『制度』という単語を使うと、いかにも公という受け取られ方をする。制度を作れるのは公的機関しかないだろうとなる。これはいかにもマズイ」
と、苦り切った表情で話しました。
こうしたアキレス腱を抱えているだけに、国会側の維新首脳は火消しに躍起となりました。たとえば、小沢鋭仁国対委員長。
「少なくとも党の結論ではない。橋下氏に発言の真意を確認している」
そして、夏の参院選への影響に関しては「最小限に食い止めないといけない」と懸念を示しました。
ところが、維新のもう一方の共同代表、石原慎太郎衆議院議員は、
「軍と売春はつきもので、歴史の原理みたいなものだ。決して好ましいものではないが、橋下氏は基本的に間違ったことは言っていない」と擁護しています。どうやら、これも党としての意見として集約されていない、個人的な発言だったようです。
また、維新幹事長の松井一郎大阪府知事は、
「橋下氏らしい発言だ。現実に(慰安婦が)あったということは、必要とされていたということだ」と述べ、理解を示しています。
一連の発言を見ていると、『橋下・松井の大阪組+石原共同代表VS東京の国会議員団』という構図で、これも、従来から言われていた維新の会の東西対立なんでしょうか?
さらに、東京組の中でもギクシャクしている部分があります。別の維新国会議員は、
「今不満がくすぶってるのが、次期参院選で園田博之国会議員団幹事長代理が地元の自民党候補を推すということ」と漏らしました。
『園田氏の自民支援、維新幹事長が容認 橋下代表も同調』http://bit.ly/16wOqBF(朝日新聞)
この国会議員は相当憤っていて、
「大阪は容認しても、東京は容認できない。というのも、新人以外の衆院議員は、おのおの様々なしがらみを乗り越えて維新に来たという過去がある。地元につながりのある候補がいても、今は政党が分かれたから支援したくてもできずにジレンマを抱えた議員もたくさんいる。その中で園田さんだけ例外では話が通らない。そもそも園田さんの地元熊本は、国会議員団幹事長の松野さんの地元でもある。そうしたことも配慮せず、軽々と容認する大阪サイドの見識を疑う」
この議員は、前々から、ダブルスタンダード、トリプルスタンダード、言い換えればご都合主義でやってきた現維新の在り方について、オリジナル維新の国会議員たちの中には不満がたまっていたといいます。決して、自分個人の意見ではないとも。どうやら、東京VS大阪だけでなく、旧太陽VSオリジナル維新という対立軸もくすぶっているようです。
となると、まさしく『内憂外患』という日本維新の会。このままでは内側からバラバラになってしまいそうです。ゴールデンウィーク明けに出された各社の世論調査でも軒並み支持率を下げていて、そうした焦りが先の橋下発言を読んだ部分もあると思いますが、前述の維新議員はこうした逆風を吹き飛ばす秘策を耳打ちしてくれました。
「近く開かれる役員会で、橋下市長に参院選出馬要請を決議する」
橋下出馬というワイルドカードを切る覚悟。果たして、風向きは変わるのでしょうか?
去年末の衆院選での大敗から5か月、民主党が今週末に『大反省会』なる催しを開くそうです。
http://www.dpj-youth.net/reflection2013/
ホームページの冒頭には、
「とことん話し合ってみたい。何がそんなにダメだったのか?そして、難しかったのか?」
と書かれていて、30歳以下の若者600人と、元総理、閣僚経験者の政治家たちが一堂に会し、若者からの質問に答えていくというイベントだそうです。
その狙いについて、
「2009年政権交代から約3年半。国民の期待を一身に受けてスタートするも、マニフェストの実現性や外交問題、大震災と原発への対応などに大きく揺れた民主党政権。その第一線を担った元総理や元大臣たちが、国家運営の苦悩や葛藤を打ち明け、若者と一緒に『難しいニッポン』を考えていきます」
と書かれています。
参加する政治家は、菅直人元総理と、枝野幸男元官房長官。さらに長妻昭元厚生労働大臣も参加するそうです。
正直、このイベント、私には疑問だらけなのです。
まず、なぜ現執行部から誰も来ないのか?これからの民主党がどうあるべきかを考えていくのであれば、「大反省会」と銘打つならば、その反省をこれからの党運営に反映できる、しかるべきポジションの人間がいなくては、机上の空論、もしくはただの言い訳に終始してしまうのではないでしょうか?失礼ながら、菅さんや枝野さんは、政権時代のA級戦犯のような存在で、現在蟄居中のような身。衆院予算委員会の理事をやっている長妻さんはかろうじて現役感がありますが、党の中枢というのはちょっとつらいものがあります。
また、イベントの趣旨に「マニフェストの実現性や...(中略)大きく揺れた民主党政権」と書いてあるなら、マニフェストを反故にして消費増税を強行した野田前総理は是が非でも参加してもらわなくてはいけませんが、報道によれば参加要請を断ったそうですね。2009年の選挙で期待した有権者が最終的に失望したのは、マニフェスト違反が目に見えた増税強行に対して何の説明も釈明もなかったからではなかったでしょうか?その判断をした野田前総理には、この機会にぜひ説明してほしかった。出し遅れの証文と言われようと、いつまでも口をつぐんでいないで、こうした機会を利用していただきたかったと思います。ただただ、残念でなりません。
もう一つ、納得いかないのは、なぜ30歳以下と制限したのか?党の青年委員会主催だからなのか?マスコミ受けを考えての年齢制限なのか?民主党再生のための大反省会と銘打ち、世代を切り分けてこうした反省会を開催するなら、まずは2009年の政権交代の時、最も民主党に期待した世代から話を聞くべきではないでしょうか?言い換えれば、どの世代の期待を最も裏切ったのかを受け止めるべきではないでしょうか?
たとえば、2009年の6月12~14日の日本テレビの世論調査。年代別の民主党支持率は、
10代...26.7%
20代...27.5%
30代...37.8%
40代...39.8%
50代...50.1%
60台以上...53.6%
50代以上は半数以上が支持していたんですね。果たして民主党は、その方々がなぜ支持をやめたのか、この5か月のうちにその理由を聞いたのでしょうか?若者の意見ももちろん大切ですが、そこを聞いただけで反省したとはならないはずです。
さらに、ホームページを見ると、
「参加者全員でのオープントークセッション」
と書かれているので、てっきり丁丁発止の質問と回答が続くもんだと思っていたら、その下に、
「みなさんの手元のケータイから、匿名で自由に質問・コメントしてください。」
と書かれています!なぜ、携帯で募集?600人を集めておきながら、なぜ携帯で募集?わざわざ民主党に意見したいと集まった人たちに、肉声でなぜ訴えさせないんでしょうか?インターネット生中継が入っている中で、厳しい批判や誹謗中傷ばかりになっては体裁が悪いと思っているんでしょうか?大丈夫ですよ。民主党が心底嫌いであれば、そんな人は来ないと思います。音もなく、ひっそりと無視し、気づかない間に背を向けます。それが世論ではないでしょうか?サイレントマジョリティーが民主党に背を向けたがために、この崩壊的な大敗となったのではないでしょうか?
結局、この党は真っ向からの批判を受け止める度量がないのかもしれません。いったいどんなイベントになるのか?この目で見て来たいと思います。
政府の産業競争力会議が労働規制改革を視野に議論を続けています。正社員の解雇について、一時金を払うことで解決しようという議論は、解雇権の濫用につながるとの批判が出て今回は結論を出さずに終わっていますが、裁量労働制の対象拡大の論議は続いています。
朝日「裁量労働制の職種拡大を提言へ 産業競争力会議」
http://www.asahi.com/business/update/0416/TKY201304160471.html
時事「裁量労働の拡大提言=雇用改革で民間議員-競争力会議」
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201304/2013041800735
この議論、私にとって非常に身近な議論なんです。というのも、実は放送局は一部裁量労働制を取り入れている会社で、アナウンサーという職種も裁量労働制の適用となる専門職の一つ。私の給料は、裁量労働制で計算されています。今回のエントリーは、経験者は語るという感じで読んでいただければと思います。
で、今回この対象を広げようと議論をしているわけなんですが、この制度、運用次第では危険なものでもあるんです。この制度を批判する意見で最も多いのが、「サービス残業が増える」ということ。裁量労働制は、自分の裁量で始業時間、就業時間を決めていい代わりに、残業代が制限されます。そして、ある一定額は最初から残業代として付与されますが、それ以上は払われないという制度です。いわば、残業代に天井が設定されるわけですね。
「今すでに天井は設定されているよ!」という方もいらっしゃるとは思いますが、そういった方でも、たとえば上司が承認すれば残業代が支払われるというようなシステムであると思います。裁量労働の場合、上司の承認などは必要なく、効率よく仕事をすればみなし残業分得をするシステムでもあるんです。ただ、みなし残業以上に仕事をしても、その分お金が支払われないので、運用次第では被雇用者にしわ寄せがいきます。批判意見は、このデメリット部分を突いているわけですね。
しかし、それ以外にも心配材料があるんです。これは、日本独特の心配でもあるんですが、社内での賃金格差が広がる可能性があります。それも、実際の仕事ぶりと関係なく、配属された部署同士の格差が広がる可能性があるのです。
そもそも、裁量労働制は、職種によって適するものと適さないものがあります。終日デスクワーク、基本的に9時5時で仕事をするようなスタッフ部門、総務・人事部門などは裁量労働制は向きません。残業時間や休憩時間なども、管理者が細かく管理することができるので、裁量が及ぶ余地は少ないからです。一方、営業外勤や、現場が外部の多数にわたるような仕事で、管理者が目の前で管理できないような職種は裁量労働に向く職種といえます。
他方、日本の雇用体系は終身雇用が長らく維持されてきました。これは、裁量労働とは真っ向から対立する概念で、長期の雇用、年功序列の同一賃金を保証する代わりに、会社の意のままに人事異動、職種変更が可能です。というか、多くの日本企業は長らくそういった運用をしてきました。
こうした会社に、一部裁量労働を導入するとどうなるか?働いている立場からすると、残業代に天井がある部署と青天井の部署ができるわけで、そうなると所属している部署、やっている職種で賃金が大きく変わることになります。これを、自分の意思で選ぶのであればいいんですが、多くの企業は、賃金体系は裁量労働でも、人事異動は相変わらず会社都合でころころ変わります。となると、自分の意思に反して裁量労働の部署に異動させられた場合、賃金は減るわ仕事は増えるわという悪循環が生まれる可能性もあります。同じ時間働いているのに、同じだけ残業代が支払われないと、当然モチベーションが下がりますよね。しかも、社内格差が広がるぐらいならまだ優しい方で、一気に全職種裁量労働となれば、残業代を一気に圧縮して人件費をカットすることができてしまいます。
では、こうしたデメリットを回避するためにはどうしたらいいのか?私は、同じく産業競争力会議で議論されている、職種固定、勤務地限定の準正社員といった立場とセットでないといけないと思うわけです。裁量労働制=スペシャリスト向けの賃金システムとしなくては、いたずらに賃金抑制の手段として使われてしまいます。それでは、アベノミクスのためになりません。なぜなら、アベノミクスは年間物価上昇率2%を目指してデフレ脱却を目指す施策ですが、実は物価の内訳の4割を人件費が占めています。ということは、人件費=賃金が上昇しない限り、物価が上がらず、すなわちデフレから脱却できず、アベノミクスは成功しないということになりますね。一時金(ボーナス)やベースアップといったところはわかりやすいですが、こうした雇用システムについても目を光らせていなくてはいけません。これからも、議論の推移を見守りましょう。
産業競争力会議
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/kaisai.html
1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。
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