2013年2月

  • 2013年02月25日

    TPP参加表明!?

     安倍政権が発足して初めての日米首脳会談が終わり、
    大きな議題となっていたTPPについて進展があったようです。
    首脳会談直後の日曜日、新聞各紙が大きな見出しで伝えています。

     

    朝日新聞『首相、TPP交渉参加表明へ 関税の聖域、日米確認』(http://bit.ly/XyOKKg
    毎日新聞『安倍首相:TPP交渉参加表明へ 全関税撤廃求めず確認』(http://bit.ly/Zx6nte
    読売新聞『TPP「一定の農産品例外」、3月にも参加表明』(http://bit.ly/XyOVp1
    産経新聞『日米首脳会談、関税「例外」を容認 TPP交渉参加表明へ』(http://bit.ly/XyP2Rz
    日経新聞『TPP交渉参加6月にも決定 首相、週内表明めざす』(http://s.nikkei.com/XyPajU
    東京新聞『TPP交渉参加表明へ 日本「成果」合作でシナリオ』(http://bit.ly/Zx6i8S

     

     ん~、並べてみると、各社同じような見出しですねぇ。総理同行記者が、同じブリーフィングをもとに記事を書くわけですから、同じようになるのも仕方がないことかもしれません。とはいえ、各社には社論というものがあるはずで、原発や外交では色が鮮明に分かれるんですが、このTPPや消費増税に関しては6紙すべてが同じ賛成論を展開しています。土曜日に番組で一緒の辛坊治郎さんがよく言うのは、
    「み~んな同じことを言う時は怪しいんですっ!疑ってかかった方がいいですよっ!」
    今回のTPP報道はまさしくこれに当てはまります。

     

     見出しだけ読むと、まるでそのままTPPに参加するかのようですが、実際はそうではありません。TPPの中身がどうなっているのかは、交渉に参加しなければわからないというのが他の外交交渉とちがうところです。よく記事を読むと、安倍総理の発言は、「交渉に参加して中身を見て条件闘争をする」という意味で、条件次第では交渉には参加しても最後に参加せずという判断もあるかもしれません。ちょっとニュアンスが変わってきますよね。

     

     それから、日米それぞれに譲れない分野があって、それがアメリカは自動車産業、日本は農業だという認識で合意し、それぞれsensitivityがあるから聖域なき関税撤廃ではないと確認されたとなっています。まるで農業を守り自動車を譲ればTPPには参加できるかのような書き方ですが、TPPは貿易だけのものではありません。TPPは保険や金融、知的財産など24の分野で包括的に解放しようという条約なのです。
    順に24の作業部会を挙げると、『首席交渉官会議、物品市場アクセス(農業)、物品市場アクセス(繊維・衣料品)、物品市場アクセス(工業)、原産地規制、貿易円滑化、SPS(衛生植物検疫)、TBT(貿易の技術的障害)、貿易救済(セーフガード等)、
    政府調達、知的財産、競争政策、サービス(越境サービス)、サービス(商用関係者の移動)、サービス(金融サービス)、サービス(電気通信サービス)、電子商取引、
    投資、環境、労働、制度的事項、紛争解決、協力、横断的事項特別部会』となります。
     どうですか?いかに、自動車や農業が狭い分野の話であるかがわかりますね。ということは、自動車と農業の話ばかりをしているうちに、外国にとって本当にオイシイ知財や政府調達、金融などが日本にとって不利な条件を呑まされるなんてことが起こるかもしれません。今後のTPP報道は、注意してみていかなくてはなりませんね。

  • 2013年02月19日

    ネット選挙のリスクとメリット

    ネット選挙解禁!という流れが盛り上がっています。今日、3回目の与野党の実務者会合が行われ、党公式ホームページへ誘導するバナー広告は認めることで一致。一方、メールに関しては折り合わず、再協議となりました。(http://bit.ly/Y1ocBh

     

     ネット選挙に関しては、濃淡の違いこそあれ、与野党各党とも基本的には賛成です。選挙にあたって、今まではホームページの更新など、ネットを使って議員の選挙活動をすることが公職選挙法で禁止されていました。したがって、ネット上で誹謗中傷された場合でも、そしてそれが事実と異なる場合でも、ホームページの更新ができない以上、一切の反論が許されませんでした。それが許されるのみならず、様々な方法で立候補者の政策を知らせることができるようになります。たとえば、政見放送。TVやラジオでの政見放送は、早朝深夜や平日昼間など、誰でも見られるような時間帯にはめったに放送されませんでした。時間を合わせて見ようとしても、政党順で放送されますから、自分の選挙区の候補をすべて見られずに終わることもあります。ネットで候補者を指定して見られるようになれば自由にみられるようになりますから、立候補者を理解するのに資することになります。これは、候補者側に要求される負担はありません。今までどおりでいいわけですから、今までむしろなぜやってこなかったのか?ということになります。

     

     が、物事には光があれば影がある。ネットの双方向性に思いを致せば、発信側のチャンネルが増えるメリットとともに、飛躍的に受信が増えるということも認識しておかなくてはなりません。今日の放送でジャーナリストの角谷浩一さんは、
    「たとえば、有権者から大量の質問が来た時に、候補者たちは対応できるのか?毎日何千、何万という質問メールが来たときに、昼間選挙活動でクタクタになった候補者たちがこの負担に耐えられるかどうか?」
    と指摘しました。
     自民党の石破幹事長も会見で、
    「拙速な決め方はよくない。それぞれ候補者に差があってはならない。」
    と語り、特にネットに弱いと言われるベテラン議員に配慮を見せました。確かに、もし専任のスタッフを雇うということになると、カネのあるなしで対応が分かれます。これでは、カネのかからない選挙のためにネットを利用するはずが、本末転倒です。

     

     さて、リスクとメリットを勘案してもなお、多くの政治家がネット解禁に希望を見ています。というのも、これが政治改革へつながる可能性があるからです。たとえば、ネット投票。これは「なりすまし」対策などまだまだ乗り越えなければならない問題がたくさんありますが、これをやれば投票率が大きく上がります。それも、若者の投票率が上がれば高齢者重視の政策が変わるかもしれません。あるいは、特定の業界・団体への利益誘導の政治から、政策本位の政治が実現するかもしれません。

     

     また、問題の多いネット投票まで行かずとも、ネット献金によって政治改革のきっかけにしようという動きもあります。ネット選挙解禁を進めるある議員は、
    「今現在は、個人の小口献金があっても、身元の確認をしなくちゃいけない。前原さんの韓国国籍の方からの献金問題以来、世の中の風当たりも厳しくなったからね。で、スタッフ使って調査すると、正直千円二千円じゃ赤字なんだよ...。ネットで、チェックボックスにチェック入れる様な形で手軽に献金が出来るようになれば、こっちも調査しなくてよくなるから、世界が変わると思うよ」
    この議員は、ネットを通じた個人の小口献金が一般的になれば、特定の団体に左右されずに政治ができる。そうなれば、政治資金規正法を改正して、企業団体献金の廃止も視野に入ってくると話していました。


    これから様々なリスクが顕在化してくるでしょう。おそらく、参院選で様々な問題が浮上し、ネット選挙の是非が問われてくると思うんですが、そこで止めてしまうのではなく、その都度手直ししつつ有用なものにしてもらいたいものです。むしろ、参院選後のネット選挙への動きの方にこそ、注目すべきでしょう。

  • 2013年02月15日

    調査の虜?

     福島第一原発の事故に対する国会事故調の調査を妨害したとして、東京電力が批判を浴びています。もともと朝日新聞のスクープから始まったこの事件、東京電力が去年の2月、福島第1原発の事故をめぐって現地調査を決めていた国会事故調に対し、1号機の原子炉建屋内部は実際に明かりがあるにもかかわらず「建屋カバーが設置されており、暗い」と虚偽の説明をしていたことが分かったというもの。ご存知の方も多いと思いますが、1号機の建屋内の非常用復水器というものが、地震で壊れたのか、それともその後の津波で壊れたのかを調べるために決定的に重要な調査でありました。国会事故調は当時の現場作業員の証言として、「地震直後、(非常用復水器のある)建屋4階から出水していた」と記しています。もし地震ですでに壊れていたということになると、原発の耐震基準そのものに疑念が生まれます。すると今後の再稼働も「耐震基準の抜本的な見直し→必要あれば、それを受けての改修工事」というプロセスを経なければならず、東電が再建策の柱と位置付けている柏崎刈羽原発の再稼働も夢となります。高度な経営判断にも影響する調査だけに、組織ぐるみで調査を妨害したのではないか?というのがこの問題の根幹にあります。

     

     さて、火曜日には衆院予算委員会に東電の広瀬社長が参考人招致され、この件についての質疑が行われました。(http://bit.ly/W0xU3m
     各社、見出しには「東電社長、陳謝」という文字が踊っていましたが、傍聴していた私の印象としては、こんなものは陳謝でも何でもありません。ただの『トカゲのしっぽ切り』でした。

     

     民主党の辻本清美議員の参考人招致要請にこたえての今回の答弁。(http://bit.ly/W0A6Ig
    当時の東電企画部部長の虚偽説明に関して、
    「本人が間違った認識のもと、誤った説明をしてしまった」
    「本人が調査せずに思い込みのまま説明をした」
    「暗さは当人の思い込みがありましが、(中略)上司には全く相談せずに、本人が調査したものを説明したものであります」
    と、当時の企画部部長にすべての責任を押し付けました。
     委員会室からは与野党問わず失笑が漏れる有様。そりゃそうです。サラリーマンが会社の経営に関わるようなマターで、上司の判断を仰がずに独断専行できるはずがありません。私なら怖くてそんなことしません。本一つ買うのだって、上司の許可を求めますもの。ましてやこんな一大事。絶対に、上司に言質を取って、何かあったら守ってもらえるように根回しをするはずです。というわけで、疑念は晴れず、もう一人参考人で承知されていた原子力規制委員会の田中俊一委員長が、「規制委として調査したい」という発言でゲタを預かったような格好になりました。


     全体的に、東電=悪、事故調=善という論調で記事は終わっているわけですが、私はその単純な二項対立にも疑問を覚えるんです。というのも、国会事故調の先生方は、「暗い」ということで恐れをなし、調査をあきらめたのか?線量が高くて、防護服を着てもどうにもならないというのなら分かりますが、それ以前に東電がカバーも照明も設置したことを考えると、必要な防護策を取れば調査はできたんでしょう。となると、「暗い」ということが本当の理由?もちろん、第一義的には東電の対応が問題ですが、もう一つ、事故調側の事情も調べなくては問題は解決しないような気がします。さらに、規制委が調査に入るとの報道もありますが、今回の問題が東電と原子力村の癒着の体質が生んだものだとしたら、規制委が入ったところで何を調べるというのでしょう。国会事故調は、東電と規制当局の関係を「規制の虜」と表現しましたが、その国会事故調が、いわば「調査の虜」になってしまっていたとしたら、恐ろしいことです。

  • 2013年02月08日

    国会同意人事報道の裏

     国会同意人事で民主党が先祖返りしたと大不評です。
    http://bit.ly/VKTXAm(毎日新聞)
    http://bit.ly/XYSf8B(読売新聞社説)

     

     いわゆる3条委員会の委員長人事や日銀総裁人事などは、衆参両院の議決が必要で、かつこれには衆議員の優越は適用されません。先の選挙の結果で、現在衆議院は自民・公明の与党が圧倒的多数を擁していますが、参議院第一党は野党民主党という『ねじれ国会』であることはご存じのとおりです。それゆえ、民主党が参議院で人事案に反対すればこの人事は通らないという、民主圧倒的有利な状況となっています。

     

     その上、この国会同意人事には、「事前報道ルール」という厄介な取り決めがあります。事前にメディアで報道された人事案の提示は受け入れられないというもので、このルールが作られた当時の参院議院運営委員長、西岡武夫の名前をとって、「西岡ルール」とも言われています。政権交代直前の2008年には日銀総裁人事を巡って民主党がこのルールを連発。審議を拒否し、結果日銀総裁の椅子が一か月にわたって空席となったことまでありました。いわば、「決められない政治」の象徴の一つとなっていたこの「西岡ルール」。安倍内閣発足前後には、このルールの撤廃を与野党で協議することになっていました。


     しかし、昨日、公正取引委員長の人事を読売新聞が報道したことを受け、民主党の輿石参院議員会長が人事提示を拒否。そこで、前掲のようにメディア各社はこぞって民主党の姿勢を批判しています。他の野党幹部は、「与党ボケがようやく直った」(みんなの党・渡辺代表)という評価ですが、実は民主党のこの対応、与党時代のしがらみを断ち切れずにいる対応とみる向きもあります。
     ある野党議員は、「公取委員長のポストは財務省の次官クラスの定番天下りポスト。今回提示されたのも、杉本和行元財務次官だ。この人事は実は野田政権時代にも提示しようとしていた人事だし、そもそも民主党政権は財務省にアタマが上がらなかったんだから、この人事案は反対のしようがない。ただ、野党が目玉人事で政府案においそれと賛成することもできない。そこで、西岡ルールを持ち出したのだ。」
     さらに、別の議員は、新聞がこの民主党の姿勢をこぞって叩く訳を解説します。
    「公取委は独占禁止法を差配するポスト。新聞各社にとって生命線の再販制度を独禁法違反の例外として運用することを認める機関だ。そこに何をするかもわからない人物を据えられるのは困る。さらに、来たる消費増税では軽減税率を認めてもらいたいから、財務省へは貸しを作らなくてはならない。二つのメリットで財務省OBの杉本氏を押し込む人事を支持したいが、国民の批判が多い天下りなので表立っての支持はしづらい。そこで、西岡ルール・民主党の対応へと問題をすり替えれば、杉本氏の人物像にスポットが当たらず、まさしく"渡りに船"なのだ。」

     

     はたして、民主党はそんなマスコミの懐事情を知っているのでしょうか?政権にいたころは、こういった情報は財務省を通して逐一把握していたんでしょうが...。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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