2013年1月

  • 2013年01月29日

    『夢の飛行機』の今後

     『ドリームライナー』と言われたボーイング787の運航停止が長引いています。飛行中にバッテリーが火を噴いたという、一歩間違えば大惨事を招きかねない事故が起こっただけに、徹底的な原因究明と改善が求められており、それだけに時間がかかるのも致し方ないところです。

     

     さて、このボーイング787。『ドリームライナー』という名前がついている通り、様々な分野で航空の世界を変える「夢」の詰まった飛行機だったのです。
     まずはその構造。東レの開発したカーボンファイバー(炭素繊維)を使用して、機体の大幅な軽量化に成功。これがどれほど革命的かと言えば、飛躍的に航続距離を伸ばすことができたんですね。この787は、一度に運べるお客さんの数が150~200人強。一般には中型機と言われていて、今までこのサイズの飛行機はアジア方面や羽田~地方都市間の輸送に使われてきました。飛行時間4,5時間まででそこそこの需要のある都市へという、『中距離、中需要』向けの飛行機だったのです。しかし、787なら、『長距離、中需要』が可能となりました。具体的に言えば、太平洋をまたげるようになったのです。これは、日本の航空会社にとっては非常に革命的でした。

     

     太平洋の西の端に位置する我が国ニッポン。ここからアメリカ方面に出ようとすると、どうしても太平洋を越えなくてはなりません。万が一エンジントラブルなどがあろうものなら、そのまま海に落ちてしまうという大きなリスクを孕む航路。ここを超えるには、長らく4発エンジンでなくてはという不文律がありました。1発ダメになっても、残り3発で何とかなる。そういったフェイルセーフ思想で、エンジンが4つついたジャンボジェット(ボーイング747)が長らく米国航路の主役だったわけですね。これを変えたのが、『トリプルセブン』の愛称のボーイング777。機体の軽量化に加え、超大型エンジンを装備して、2発でも太平洋を越えられるという実績を作りました。この時も、現場のパイロットの間では、2発エンジンに対する生理的な不安が拭えなかったと聞いたことがあります。しかし、この777にしても、大きなエンジンを取り付けるためには大きな機体が必要で、それだけに『長距離、大需要』の都市間を結ぶためにしか使えませんでした。このことが、航空業界では長らく主流だった「ハブ&スポーク」というネットワークを生んだわけです。大きな都市同士を大規模輸送の大型機で結び、そこで乗り換えて各地方都市へ中・小型機で飛んでいく。これを図にして表すと、大きな空港を中心(ハブ)にして、周りの都市へ細い線が無数に伸びていく(スポーク)。だから、中心部分にヒトもモノもカネも集中する。ここを抑えれば、大儲けできる。日本の空港もハブ空港化しなくては!ここ10年言われ続けてきたことです。

     

     しかし、787はこの概念を覆します。いままでスポークの先にいた地方空港へも、日本からダイレクトに飛ばすことができます。燃費が良く、運べる人数も200人前後。今まで777を飛ばすほどの需要がなかったボストン(JAL)やサンノゼ(ANA)にも路線を開設できたのは、787ならではです。

     

     また、製造工程も従来の飛行機作りとは一線を画しています。777までは、まるで自動車工場のラインと同じように、ゆっくりと動く機体を少しずつ組み立てていくスタイル。いわばトヨタの「カンバン方式」の飛行機版です。一方の787は、機体を部品ごとに分けた「モジュール生産」と呼ばれる方式。世界各地から、「後部尾翼」「電子機器」といったひと塊を国際分業で調達し、最後にアメリカ、シアトルのエバレット工場で組み上げるという方式です。
    http://bit.ly/XbAZ1B

     佐々木俊尚さんの最新のメルマガ(http://www.pressa.jp)に、生産思想についての言及がありました。
    「製造の基本思想には、大きく分けると「インテグラル型」(すりあわせ)と「モジュール型」(組み合わせ)の2種類があります。インテグラルは、部品と部品の間の調整が非常に大切で、そこに技術が必要。いっぽうモジュール型は、部品と部品の接合部分(インタフェイス)が標準化されていて、これらを寄せ集めればさまざまな製品が出来てしまうというものです。」

     これをボーイング社の飛行機作りに当てはめると、今までの方式は「インテグラル型」で、787は「モジュール型」ということになります。これは、飛行機作りの革命であるわけです。人命を預かる飛行機ですから、今までは細部まで入念な「すり合わせ」が必要でした。それゆえ、ボーイングのエバレットの工場でしか、飛行機は作れなかったわけです。それを、もちろん安全を担保したうえでですが、「モジュール型」の作り方にしてしまえば、世界中からより安い部品を取り寄せ、組み上げは最終消費地で行うことすら可能...。今はエバレットで作っていますが、工場そのものの設備もいらなくなるのです。ひょっとすると、羽田空港の整備場でも飛行機を組み上げることが、理論上は可能となるわけですね。

     

     こんな革命的な飛行機ですが、年が明けてからトラブル続き。考えてみると、モジュール化したために、その接続部でのトラブルが続いているような気がしてなりません。まだ調査の途中ですが、個々の部品一つ一つには不具合が見つかっていないわけですし。もしモジュール化の不安が見えてきた場合、一から生産ラインを組みなおさなければならなくなり、1年2年でという話ではなくなってきます。ん~、この問題、我々が思っている以上に長くかかりそうです。

  • 2013年01月22日

    麻生発言をめぐって...

     アルジェリアの人質事件が悲劇的な結末を迎えた昨日21日、その間隙を縫うように、社会保障制度改革国民会議が開かれました。去年8月に行われた消費増税法案を通すのに、その引き換えとして開かれることが決まったこの会議。安倍内閣が発足して初めての会議だったんですが、ここでの麻生副総理の発言がちょっと物議をかもしました。誤解を恐れずに言えば、「揚げ足取りが始まった」ということです。

    見出しだけをみれば、

    「麻生副総理「さっさと死ねるようにして」終末期医療巡り」(日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS2101P_R20C13A1PP8000/

    「さっさと死ねるよう...麻生氏、終末医療巡り発言」(読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130121-OYT1T01077.htm
    「「さっさと死ねるように」 終末医療で麻生氏失言」(東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013012202000109.html
     刺激的な言葉が並んでいます。東京新聞に至っては、見出しで明確に「失言」と書いていて、各新聞がこの発言を大きな問題だと考えていることが見て取れるわけです。

     

     まず、どんな発言があったのか?麻生副総理はその後発言を撤回し、議事録からも削除するとのことなので、一言一句正確にこういう発言があったという公式なものはありませんが、時事通信に発言要旨がありました。
    http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013012100565

     

     もちろん、その表現自体のデリカシーのなさは問題ですが、発言全体を見ると、終末期医療全体の問題点を指摘しただけとも言えます。もっと言えば、「命」そのものへの問いでもある。日本では「尊厳死」というものは認められていません。人は、自分の意志で精いっぱい生きることができる。生きなければならない。精いっぱい生きようと思っても経済的にままならない人には、国がバックアップしてくれる。これが社会保障。
     では、自分の意志が表現できなくなったらどうなる...?社会保障という公的制度への負担もさることながら、身内への負担を考えると「どこまで生きようか」とか、考えませんか?私のやぶにらみかもしれませんが、ここまでの問題提起も含んでいた発言であるような気がします。というのも、この会議はインターネットで生中継されていたのです。すべての発言がオープンである中で、ここまでのぶっちゃけトークはなかなかできないと思います。

     

     ただ、マスコミ各社はこの発言の一部分を切り取って「失言だ!」と報道しました。が、ここから、官邸サイドの対応も早かった。今回のアルジェリア人質事件の対応でも評価が高い安倍官邸ですが、この麻生発言でも危機管理力の高さを見せつけました。この発言が出たのが、11時から始まった会議の席上。速報されたのが、2時前でしたが、午後の官房長官会見でこの件を質問されたときにはすでにケリがついていました。菅官房長官は、
    「報道を受けて本人に事実関係の確認をし、本人から、「個人の人生観を発言し、誤解を受けた。撤回する」と報告を受けた」と発言。即座に撤回させて幕引きを図りました。
     閣僚の失言から内閣が瓦解というのがここ3年、民主党政権の定番でしたが、安倍政権はそうではない。国土強靭化の前に、内閣強靭化は達成されているようです。

  • 2013年01月15日

    悪魔は細部に宿る

     政府の緊急経済対策が発表されました。
    http://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2013/0111_01taisaku.pdf
    各紙、各テレビ局も「これで暮らしはどうなる?」という特集を組んでいます。 

     

     今回の安倍政権の経済についての考え方は、この緊急経済対策を発表する総理会見の冒頭で端的に述べています。
    「安倍政権では、まず政策の基本哲学を変えていきます。『縮小均衡の再分配』から、『成長による富の創出』へと大胆に転換を図っていきます。」
    (以上、首相官邸HP http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0111kaiken.html から)
     つまり、民主党政権時代の分配重視の政策、「まずカネを配ります」から、成長重視、「まずは働こう!そして、その果実をみんなで分かち合おう」というところへの転換を図ることが柱なわけです。景気浮揚のきっかけはこの緊急経済対策やその後の平成24年度補正予算、25年度本予算ですが、真に景気を上向かせるのは民間の力であるという理念があります。この経済対策は着火剤。その後のロケットスタートは民間の活力。この意気やよしと私も思うんですが、問題はその運用方法。それ如何によっては、毒にも薬にもなります。その毒も、ある程度の副作用は仕方ないかもしれませんが、これが毒の方の作用が多くなっては本末転倒です。

     

     たとえば、甘利経済再生担当大臣も会見で強調していた、道路インフラ。緊急経済対策の中には、
    「全国ミッシングリンクの整備(国土交通省)」
    と明記されています。(6ページ)
     ミッシングリンクは、全国の高速道路などでまだ未開通の部分のこと。全国高速道路図を見ると、ブツ切れで開通している高速もけっこうあるんですね。
    これを一つに通せば、災害が起きたときに救援物資が届きやすくなるし、平時も物流コストを減らせて景気浮揚にも役立つとの主張がされています。もちろん、そういう面もあるでしょう。しかし、運用次第では、クマしか通らないと揶揄されたような道路を作る言い訳にも使えます。

     

     あるいは、話題にだいぶ上っている教育資金贈与。こちらも、
    「高齢者の資産を若年層に移転させるとともに、教育・人材育成をサポートするため、祖父母からの教育資金の一括贈与について、贈与税を非課税とする措置を創設<税制>(文部科学省、金融庁、経済産業省)」
    と明記されています。(15ページ)
     日本の個人金融資産は1400兆円を超えているとされ、その大半を高齢者が保有しているとされています。その眠った資産を生かすために、孫の教育資金としての贈与は一定金額まで非課税とする方針で、上限金額は1500万円で調整しているということが新聞紙上を賑わせています。子育て世代の方があれやこれやと資金需要があるわけですから、世の中へお金を回して景気を良くしようという方針にも合致する施策ですが、これも使い方次第の面があります。というのも、よく言う「カネに色はついていない」ということです。仮に、1500万円ももらったら、全額を教育資金に使いますか?家族3人4人で暮らしていくためには、食費だって光熱費だって必要です。サラリーマンの家庭で、いちいち細かな買い物に領収証をもらうわけではありません。乱暴な言い方をすれば、教育費に使おうが生活費に使おうが、はたまたローン返済に使おうが、証拠は残らないわけです。そこで、確定申告の時に過少申告となるかどうかは摘発を担当する現場の裁量ということになるのでしょうか?そうなれば、国税にまた絶大が権限が発生するということになります。

     

     線引きがあいまいだと、そこに利権が発生する。復興資金の使い道の問題などでさんざん取り上げられた条文のあいまいさですが、気を抜いているとまた繰り返される可能性があります。総論では大多数が賛成のこの経済対策が実のあるものになるように、「悪魔は細部に宿る」と思って見続けなければなりません。

  • 2013年01月09日

    江の島のネコから日本警察を思う

     去年の年末に大きな話題となった事件といえば、インターネット上のプログラムで乗っ取られたパソコンから犯罪を予告する書き込みが相次いだ、PC遠隔操作事件。年が明けてから新展開がありました。いくつかの謎解きをすると、江の島に住んでいる猫が答えとして出てきて、その首輪に記憶媒体(マイクロSDカード)がくくりつけられていて、それに犯人を割り出すヒントが入っているというものです。そして、そのマイクロSDの中のファイルには、「自分は以前、事件に巻き込まれたせいで、無実にもかかわらず、人生の大幅な軌道修正をさせられた」という、犯行の動機と読めるものが書き込まれていたようです。


     それにしても、この謎解きメールが送られてきてからの捜査関係者の動きを見てると、陽動メールに踊らされて山狩りを行ったり、その後江の島で猫を追いかけたりと、いいように犯人に踊らされている気がします。サイバー犯罪の捜査がいかに難しいものか、犯人側と捜査側の技術の追いかけっこが続いているというものを実感するわけですが、こういった捜査で最先端なのは京都府警だそうです。専門家を民間からスカウトするなどして、積極的に捜査を行っているようで、他都道府県の事件であっても京都府警がまず動くということもしばしばあるそうです。
     ウィニー事件などで早くからこの手の犯罪と対峙してきた京都府警だけに、その努力には頭が下がる思いなんですが、一方で疑問に思うのは、なぜ各自治体警察単位での対応になっているのかという点。敵はネット上を勇躍しているわけで、この世界はまさしくボーダーレス。国境すらも軽々と飛び越えて行きます。そこにリアルの都道府県境なんてものは屁のツッパリにもなりません。今回のPC遠隔操作事件のような劇場型犯罪で警察の信頼が失墜すれば、治安への影響、海外が日本を見る目など、悪影響は計り知れません。いわば日本国警察そのものが問われているのです。それなのになぜ、都道府県警という枠、殻にいまだに閉じこもるのか?


     歴史を紐解くと、戦前の内務省が中央集権で警察組織を指揮したことで言論の弾圧などが行われたとして、その反省で今の縦割りが続いているようですが、それこそ60年以上前の常識にいまだに捕らわれている証拠です。戦後レジームからの脱却を掲げる安倍政権。ネット犯罪対応でも戦後レジームを脱却できるのか?PC遠隔操作事件が投げかける波紋は、警察組織そのものへの疑問も投げかけています。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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「飯田浩司そこまで言うか!」

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