各種世論調査で、いま取り組んでほしいこと、衆院選で争点にすることの第一位は「景気」。それゆえ、ほぼ出揃った各党の政権公約も、経済政策に紙幅を割いているところが多いですね。自民党の安倍総裁がその代表のようなもので、解散前後から積極的な金融緩和を中心とした自民党の経済政策を街頭演説や講演で発言し、それが市場に影響を与えています。中にはかなり刺激的な内容もあって、たとえば「輪転機をフル回転させてお札を刷りまくる」「インフレターゲットを設定して、その水準までは無制限に金融緩和を継続する」「建設国債を発行し、それを日銀に全額買い取ってもらう。」などなど...。これにより、衆議員が解散した16日から株価は上昇、円は安値に振れ、市場はこの発言を好感しているように見えます。野田総理が党首討論で解散を明言した14日の8664円73銭から、今日の終値、9446円01銭まで、2週間ちょっとで800円近く上昇。円は79円台から、一時は83円をうかがうまでに円安へ。安倍総裁は自身の経済政策に自信を深めているようです。
一方、野田総理を含め、政府与党、新聞各紙、日銀総裁や経済界からも非難囂々。「お金を刷れば、お金の価値が下がって止められないハイパーインフレになる!」「戦時中に国債を日銀に引き受けさせて、戦費が拡大した!軍靴の音が聞こえる!」と、インフレになる!と大合唱です。
たしかに、土曜のズームで辛坊治郎さんが言っていた通り、インタゲの水準まで無制限緩和し、そこからインフレ率を安定させるというのはナローパス(狭い道=実現が難しい解決策)かもしれません。これについては今後議論していけばいいでしょう。
しかしながら、そんな金融政策議論のもっと前に、実は、それこそ「軍靴の音が聞こえる」ような出来事が起こったことはあまり知られていません。これ、昨日のネット党首討論で、新党日本の田中康夫代表が指摘していました。(大した記事になっていませんでしたが...)発言をニコニコ動画が文字に起こしてくれていたので、それを引用します。
(全文は、http://news.nicovideo.jp/watch/nw445357から)
田中:(総理は)「財政規律を守るために消費税を上げる」と、おっしゃった。しかし、今(臨時)国会において、民主党は財政規律を破る赤字国債、特例国債を国会の審議なしで、3年間、青天井で出せるということを決められた。これはまさに、戦前戦中に軍部の予算を、国会も政府も審議をすることができずに、戦時国債を発行してきたことと同じです。
あの解散の騒ぎの中で、いわばどさくさに紛れて民・自・公の3党で合意し、成立したものです。正確には、年度の予算案を通す時に特例公債法案もセットで通すよう合意したというもの。ねじれ国会で、参院で特例公債法案が与党を揺さぶる材料となっていたのを是正するためのもので、これこそが「決められる政治」だ!と総理周辺が言っていました。ではなぜ、毎年毎年国会の議決が必要なルールになっていたのか?その原点を見ると、「決められる政治」とやらがいかに詭弁か分かります。
1975年度、第一次石油危機によるインフレと戦後初のマイナス成長で、財政が急激に悪化しました。このため財政法では禁じられている赤字国債の発行に踏み切るのですが、時の蔵相、大平正芳の主張で、1年ごとの特例法扱いになりました。というのも、「毎年苦労して法案を通すことで、赤字国債を減らそうという思いを新たにする必要がある」と、あえて恒久法にしなかったそうです。回りくどい手続きには、理由があったんですね。
しかし、大平の思いに反して、政府は赤字国債を発行し続けます。今や、年間40兆に迫る額となった赤字国債。この発行に関する心理的なリミットとなっていた特例公債法を、予算案とセットで自動的に成立させるようにしてしまいました。これは、クレジットカードの限度額をなくして、無尽蔵に借金できるようにしてしまったも同然です。そう考えると「決められる政治」という言葉の何と軽いことか!いかに増税しても、財政規律を訴えても、こういった財政に対するポリシーでは、やすやすと借金を増やしてしまいそうです。そして、借金が増えたからまた増税する。増税スパイラルの入り口に、我々は立っているのかもしれません。
太陽の党と合併する前の日本維新の会の規約には、重要案件は最終的に党首が判断する。党首に拒否権があるという一文があり、国会議員団と対立した際も、最後の断は党首が下すという規約がありました。それが、こちら。
党規約第6条三の6
執行役員会の議事は代表及びその他の構成員の双方の意見を含む出席者の過半数の意見をもって決する。
http://j-ishin.jp/about/principles.html
「代表と、その他の構成員の双方の意見を含む」と書いてありますので、逆に読めば、代表の意見が入っていない意見はそれを党の方針として決することができないと読むことができ、それゆえ代表が最後の断を下すということになります。
さて、一方で、国会は国権の最高機関です。国民の投票で選ばれた国会議員が議決します。これが主権を行使するということ。この判断に影響するのは、国民(有権者)の意志のみのはずが...、一地方自治体の首長に過ぎない橋下氏の意向が優先するとなると、システムとしておかしい。と、私は思っていました。
もちろん、維新側もこういった批判には反論を用意していて、
「現在は中央集権だから気になるだけで、地方分権が進めばどこが偉いというのはなくなる。したがって、国会議員を指揮命令できる首長がいてもいい」
また、橋下大阪市長もこういった発言をしていました。
「それはもう、マネジメントですよ。一般の企業組織の場合には、人事権というものがすべてトップにある。その人事権に基づいて組織マネジメントをするが、この議員集団というものは、それぞれのメンバーが有権者から選ばれた代表。本来の人事権は有権者にあり、それぞれの議員は、基本的には有権者の顔を見る。それが原則であって然るべきだと思う。でもそれだと、政治家組織としてマネジメントができない。だから、トップにもある程度マネジメントの権限を渡さなけりゃいけない」
お説ごもっともという感じですが...。
ただし、仮に彼らの言う地方分権が成就して国と地方の役割分担ができたとしても、国会の機能は残ります。その際の国会の機能は、国全体として判断すべき、外交や防衛に関する問題、法律などを議決すること。その時に、一構成員(代表)の意向が大きく影響するようでは、システムとしてやはりおかしい。これは、中央集権とか地方分権とかいう問題ではなく、一般企業のような契約に基づく関係と、おのおの主権の束をもとに選出される国会議員との立場の違いです。主権の束を手にしているんですから、それぞれに事情が違うのが当たり前。その違いを議論によって、いわば最大公約数に磨き上げていくのが民主主義のプロセスなのではないでしょうか。やはり、一連の意思決定のプロセスとしてトップダウンというのはおかしい。民主主義のシステムで進めようとしながら、党規約で民主主義を否定するという自己矛盾があるのではないでしょうか。
百歩譲って、そこに目をつぶってでも橋下氏の突破力が魅力だから維新を支持するんだと言われればそれは個人の判断ですが、仮に橋下氏が党首を降りたとき、怪物のような後継党首がこの党規約を振りかざして国政を私することになっても、もう文句もつけられません。何とかは細部に宿るといいますが、システム的な欠陥は早いうちに修正すべきだと思うんですが...。
と、ここまでは10月の時点で原稿案として書き進めて寝かせておいたんです。
そうしたら、その後、あれよあれよという間に石原慎太郎さんの太陽の党が日本維新の会と合併し、石原さんが代表に就きました。政策については太陽の党サイドが維新の政策を丸呑みする形での合併となりましたが、ここでこの規約がモノを言うわけです。いかに政策合意ができて、消費税は地方税化、TPPも参加すべしとなっても、代表の意見が100%通るシステムになっているわけですから、実際の国会での採決となった時に、石原さんがいわば「代表大権」を持ち出せば、反対できる人は維新の中にはいないのです。オリーブの木が成就して、いざ「国民の生活が第一」と連携しようとしても、代表の「俺は小沢が大嫌いなんだ!」という一言で話がちゃぶ台返しされたら、反対できる人はいないのです。今後維新が規約を改正して、代表代行に就いた橋下さんにも同じような拒否権を付与するかもしれませんが、今度は意見が割れた場合、決められないという致命的な対決となる可能性もあります。
ま、企業・団体献金禁止という旗印も、合併で事情が変わったと撤廃したわけですから、今後規約も様々に変わるのでしょう。選挙を前に、こういった動きも注意深く見ていきたいと思いますが、このままではかなりいびつな形の政党であるということが言えそうです。
木曜ボイスのコメンテーターの青山繁晴さんは、海外に行くことを常に勧められます。行って、現地の人間と語り合うことで、自分の祖国、日本を見つめなおすことができる。中にいるとわからないことが見えてくる。世界の中での日本の立場が見えてくるとおっしゃいます。それを受けて、私ごとなんですが、先日お休みをいただいてささやかながら旅行に行き、現地の人々と語り合う機会がありました。
私が行ったのは、スイスです。知り合いのスイス人とランチを食べながら話をしました。その彼は、もともとメーカーに勤めていて、すでにリタイアしている方です。開口一番、彼は
「日本は景気いいのか?最近持ち直してきたらしいじゃないか」
ん?日本が景気いい?誰がそんなこと言っているの?と聞き返すと、
「証券会社の人が言っているんで、日本株の投資信託を考えてるんだよ」
ですって。ん~、日本に暮らしていると、お世辞でも景気がいいなんて言えないわけなんですが、ハタと気づきました。変わっていないのは日本だけかもしれない。ヨーロッパはギリシャ危機で火がついていますし、アメリカはリーマンショック以降パッとしない。中国だって、高成長が曲がり角に来ています。そこへ行くと、日本はGDPが下がっているとはいえ、いまだに世界第3位。その上現状円高なので、ドルベースやユーロベースで見ると、日本企業は放っておけば企業価値が上がっているように見えるのです!周りが地盤沈下を起こしている、さらに円高というネガティブな理由ではありますが、結果的に日本は今、世界を支えているのかもしれません。彼との話で、そんなことを思い、日本を見直しました。あ、彼には一応日本の現状を説明し、どうしても買いたいなら止めないけど、おすすめはしないと言っておきましたがね。
そしてもう一人、今度は同世代の金融マンと夕飯をともにしました。結構な額のお金をその指先で動かすらしい彼が今一番気になっているのは、日中関係。
「一体全体どうなっているんだ?どういう経緯で揉めて、日本はどんな主張をしていて、そしてこれからどうしていきたいんだ?」
と、質問攻めに遭いました。というのも、彼が言うには、「中国の主張は新聞を開けば分かるんだけど、お前たち日本の主張はどこにも出てこないんだよ。」NYタイムズに1ページすべて使っての広告をガンガン打っているというのが日本で話題になっていますが、中国の国際PRはそんなもんじゃありません。ドイツの新聞やスイスの新聞にも、全面広告や広告記事をガンガン載せているようなのです。国際機関というと、ニューヨークの国際連合本部が思い浮かびますが、本当はヨーロッパの方が国際機関がたくさんあるんですね。オランダ・ハーグの国際司法裁判所、ジュネーブの世界貿易機関や国際赤十字などなど...。これらを狙って中国政府は広告を打ちまくっているんですね。
で、そこに感心するやら怒りを覚えるやらした上で彼に、
「日本政府は尖閣は歴史的にも今現在も実効支配しているんだから、なんの問題も存在しない。問題が存在しないからそれ以上言うこともないのだ。」
と、政府公式見解を紹介すると、「それはおかしい。なぜ言い返さない。それは問題のあるなしとは別問題だ」と、ど真ん中から正論をぶつけられました。彼は何度も来日している親日家だから中国の全面広告ごときに踊らされたりはしませんが、一般のスイス人、ドイツ人は材料が中国の広告しかなければ信じてしまうでしょう。実際、彼の友人にもそういう人がいると言っていました。
これは、現在進行中の危機です。こうやってじわじわと拡散していく国際プロパガンダが、結局国際世論になってしまうかもしれません。スイス人相手に、下手な英語で汗をかきかき説明しながら、途方もない焦りを感じました。ん~、青山さんの言うとおり、海外の人と話すといろいろな気づきができますね。あまり後味がよくない気づきでしたが...。
1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。
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